昨日は深夜までかかって、「渡邉恒雄回顧録」(中央公論新社)を読了。読売新聞の社長、ナベツネこと渡邉恒雄が波乱万丈の一代記を語るという本。インタビュアー達のワザや気配りも素晴らしかったということだろうか、ナベツネがあれこれと自分の一代記を機嫌よくしゃべっている。
それにしても、ご本尊の破天荒な人生は、オモロイところはまるで漫才のようで、読んでてちっとも飽きない。毀誉褒貶の激しい人物であるが、ある意味、エライもんである。
東大に入学して共産党の細胞となるが、個人の主体性を圧殺する党の方針に逆らって論争を起こし、返り討ちにあって除名。大学院の研究室では、ホコリの積もり具合から、誰も読んでないと踏んだドイツ語のヘーゲル哲学解説の文献を選んで、丸写しに翻訳して少しずつ自分の論文として提出していたが、いつも持ち歩いてたその肝心のネタ本を、新宿駅の便所に落として論文続行が不可能となる。そこで大学院卒業をあきらめ、読売新聞社入社。<ホンマかいな、おい。
そして政治記者として、保守党の大物、大野伴睦の懐に飛びこんで可愛がられ、色々な有力政治家との知己を得る。自らも政治の動きや政争に深くかかわり、いくつもトップ記事をものにして大物記者に成りあがって行く。
新聞社の後輩記者を、毎晩飲ませて大勢子分にしたり、気に入らない上司には噛みついたり、編集局長には嫌われてアメリカに飛ばされたり。しまいには、自民党内の政争にも自ら乗り出してあれこれと暗躍しながら、なお、勤めている読売新聞社内でも権力争いに勝利して、読売新聞社代表取締役社長・巨人軍オーナーにまで上り詰めるのである。ま、いわば徹頭徹尾に政治的で親分肌で、盛大な唯我独尊的「オレがオレが」人生であって、読んでてもちょっと圧倒されるものがある。
子分にしたら、気の効く「愛(う)い奴」で、親分にしたら、やかましくて威張るが頼りになって、敵にしたら、凄まじく恐ろしい。そういう巨魁、ナベツネの本性が、インタビュアーの質問にご本人が機嫌よく答えているうちに意図せずとも見えてくる。インタビュー物ってのは、こういうところが実に面白い。
本人は、自らにつきまとったダークサイドのウワサについてはすべて憶測であると一蹴している。しかし、つきあった政治家達の汚い面については、他人事の気楽さか、おかまいなしにアッケラカンと色々と暴露しているので、この本は日本の保守党の派閥、政治の汚濁の裏面史としても読んでも興味深い。
あるいは、学生時代は哲学家を志したというナベツネの文学青年的資質に着目するなら、新聞記者として、「書く」ことにとりつかれ、特定の政治家に取り入りすぎだと悪口を言われ続けても、政治家の内懐に飛びこみ、自ら政治ドラマの配役として、特ダネを演出してでも新聞に「書きたかった」、「報道したかった」、そういう新聞記者一筋の人生の記録としても読み取れるだろう。
大変面白く読んだが、本の題名はちょっと硬すぎるな。「ナベツネ大いに語る」、「ナベツネ吠える!」、あるいは、「ナベツネ放談録」とでもしたほうが、ずっと読者は増えただろうに。しかし、この本は、今や読売新聞に買収されて傘下に入ってしまった中央公論社の発行であるから、やはりそういうフザケタ題名をつけるはずはなかったか。
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