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2000/05/22 「凡宰伝」を読んだ / 「タ」行の文字

昨日の夜はちょっと冷酒を飲みながら、「凡宰伝」(佐野眞一/文言春秋)を読了。小渕首相と何度も単独インタビューした著者が、その実像に迫るという本。

題名は凡才と宰相を組み合わせた著者の造語だろうか。自らを「凡才」と平気で称した小渕元首相を現す、なかなかうまい表現だ。ちょうど原稿が上がり、単行本の後書きを書いてる最中に小渕元首相が倒れたらしいから、言い方は悪いが、販売戦略上はたいへんおいしいタイミングで発刊されたことになる。

かなりの部分はすでに文藝春秋で発表されているのだが、まとめて読んでみると、やはりこの小渕という人は、常人の枠に収まりがたい、大変に変わった人物であったことがよく分かる。山出しの田舎者の厚かましさと簡単に片付けるわけには行かない、小渕の破天荒なエピソードがあれこれ語られており、大変に面白い。

政治家としての評価を考えれば、真空総理と揶揄された事由の大半は当たっていると言わざるをえないし、後世に残るような実績があったとも言い難い。

しかし、首相在任時はボロカス言われても、逝去したら、なんとなく「人柄の小渕」という評価が定まってしまったような感がある。もっとも死者をムチ打たないのは、日本に限らず世界的な美徳である。ケネディにしても、現職任期中に暗殺されなければ、在職中にクリントン以上の女性スキャンダルが爆発したかもしれないのだし。

政治家にとっては選挙で落選して権力の座から追われ、忘れ去られることがもっとも恐ろしい「死」である。地位にしがみついて晩節を汚すよりは、突然やってきた肉体的死によって、「人柄のブッチー」として人々に記憶されるのなら、ある意味政治家としては幸せな「死」であったかもしれない。もちろん、残されたご家族には実にお気の毒なことではあるのだが。