「地価暴落はこれからが本番だ」(増田悦佐/KKベストセラーズ)という本を読んだ。不動産の価値はまだまだこれから下がる。2000年が記録的な地価暴落元年となるというちょっと恐ろしい話を書いた本だ。著者はアメリカ滞在経験のある外資系証券のシニアアナリスト。
議論はなかなか兆発的で、面白い。「不動産の価値は、取得原価ではなく収益還元法でなければ測定できない」という著者の主張は、おそらく正論である。つまり、5000万円で買ったマンションだから5000万円の価値があるのではなく、その物件が将来に渡って獲得するキャッシュフロー(を現在価値に割引いた金額)こそが、その物件の価値であるということだ。
実際に、企業会計でも、公認会計士協会から、すでに固定資産についての減損会計の指針案が公表されているから、不動産を売るほうも、持ってるほうも、日本の企業会計の慣行は、急速にそうなって行くことだろう。
ただ、個人がそこに住みつづけるなら、売却を想定したキャッシュフローの現在価値と購入価値を比較してもあんまり意味がない。
個人の住宅に関しては、もはやバブルの頃のように、どんな物件でも購入すれば価値が上がり、それを売却すれば、もっと大きなところに住めるという、「地価上昇幻想」、「買い替え幻想」は、終焉を迎え復活することはないだろう。比較するのなら、その住宅を購入する収支と、ずっと賃借に住むことの収支の差だ。
「修繕積立金や各種税金、頭金やボーナス返済分までを月割り計算すれば、住宅購入のほうが賃借より安いというのは幻想だ」、という著者の理屈には、確かに一理ある。しかし、賃借なら、住む限り、平均寿命の尽きるまで、永久に家賃を支払わなければならないが、購入物件の支払は、いずれは終わる。つまり支払期間の問題が厳密に捉えられていないので、月額家賃と月返済額で単純に比較するわけには行かない。
本来ならば、年金計算に使う生命表の死亡率を使って、残存余命における確率的な賃借家賃の支払い合計を現在価値に割り引く数理計算を行い、その支払家賃総額の現在価値を、購入しようとしている物件(から残存価値を控除するか)の価格と比較するのが正当ではないだろうか。
もっとも、賃借有利派にとっては、「これから優良な賃貸住宅が次々供給され、家賃が安くなる」、「収入が少なくなったら安いところに移ればよい」という「予測」が重要な論点で、そのへんの基礎率や変動率をどのように置くかでも、数理計算の結果は驚くほど変わってくるだろう。
とまあ、小難しいことばかり書いたが、最近、退職給付会計の打ち合わせで、年金数理計算の話ばかりしてるので、ついついそういう風に考えてしまう。もっとも、住宅問題については、あんまりそういう厳密な収支比較の議論を見たことがないのが不思議なことだ。 平均寿命は延びてるし、考慮すべき変数は無限で、その予測は困難。いくら数理計算したところで、リストラで職を失ったり、あの世からお迎えが予想外に早く来たら、人生も大きく変わる。ま、どっちにしろ、人生はすべてバクチのようなもんだなあ。 |