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2001/02/17 大正天皇の「遠眼鏡事件」

「大正天皇」(原武史/朝日選書)読了。大正天皇は、子供の頃からオツムが弱く、帝国議会で詔書を読んだ後、詔書の紙を丸めて遠眼鏡のようにして、議会を見まわしたことがある、というのは有名な伝説である。この本は、当時の新聞などの報道から、明治・昭和に挟まれて、ほとんど話題とされない大正天皇の実像に光を当てようという研究。

確かに、「遠眼鏡事件」は当時の人には有名な噂であったが、いつ、どこで起こったかという客観的証拠は残っていない。大正天皇は幼少の頃から病弱で勉強も不得手。世間から隔離されて教育を受けたため社会性が無く、奇行が目立ったと言われている。

しかし、20代から30代にかけての皇太子時代には、精力的に日本全国を行啓し、国民とのふれあいがあった。著者は、当時の新聞に残るやりとりなどを丹念に拾いながら、大正天皇にも、健康で正常な判断力を有した皇太子時代があったということを証明しようとしているわけである。

しかし、不敬罪もあった当時、天皇や皇太子の奇想天外な発言などは堂々と新聞に載るはずはなく、不穏当な発言は検閲されたのではないだろうか。そういう疑念を持って当時の記事を読むと、どうもこの人は頭のネジが何本か抜けてるなあ、という唐突で変わった発言が散見されるように思える。

明治天皇が崩御し、新帝となって朝見の儀に望んだ時に関しても、「朝見ノ節ノ天皇陛下ノ落附カセラレザル御態度ハ、(中略) 涙滂沱(ぼうだ)タリシ老臣モアリタリト云フ」と「財部彪日記」にある。父帝が崩御されて新天皇になったというのに、公式の場での、大正天皇のあまりにも落ち着きの無い異様な奇行に、昔からの老臣は涙を押さえきれなかったというのである。やはりこの人は、明かにどこかオカシイ。

「遠眼鏡事件」そのものは、おそらくよくできた都市伝説だろう。しかし、その根底に流れているのは、大正天皇は、やはりオツムが普通ではなかったという、隠してもすでに隠しきれなかった事実であるように感じる。幼少の頃の脳膜炎の後遺症だというが、あるいは近親婚を繰り返した遺伝的悪影響もあろうか。ま、どちらにせよ気の毒なことではある。