昨日の夜は、「真相はこれだ!〜不可思議8大事件の核心を撃つ」(祝康成/新潮社)読了。 和田心臓移植、なだしお海難事件、美智子妃失語症、美空ひばり紅白落選、丸山ワクチン認可問題など、なんとなく懐かしい、主として昭和期の大事件の真相を追究したルポルタージュ。もともとは週刊新潮の連載記事だったらしい。 すでに知ってるエピソードも多い。和田心臓移植が、功を焦った和田教授による、ドナーの殺人とも言える暴走であったこと。丸山ワクチンを、未認可で放置した医学界の古い体質。しかし、どの記事も要領よくまとまっており、大変に読みやすい。 興味深かったのは、「3億円事件」の誤認逮捕事件。犯罪史に残る大事件だが、事件後しばらくして別件逮捕され、真犯人として、メディアにも実名、写真入りで大々的に報道された男性がいた。しかし、直後にこれが誤認逮捕であることが判明。これまた日本の犯罪捜査史上を代表する、「大」誤認逮捕事件となった。 この本の中には、この新聞の実名報道は、3億円事件の捜査に投入された昭和の名刑事、平塚八兵衛からのリークであったという、驚くべき証言が採録されている。 この平塚は、「捜査の神様」と呼ばれ、数々の難事件を解決した、警視庁叩き上げの鬼刑事。容疑者を「落とす」八兵衛の得意技は、「鉄拳」だったという。 クロと見こんだら、取調室で、「お前以外に、いったい誰が犯人だと言うんだ!」とムチャクチャに鉄拳を振るう。ま、当時は被疑者の人権なんぞ問題にもならない、とても牧歌的な時代だった。<牧歌的とはゼンゼン違います。 この3億円事件誤認逮捕の時も、八兵衛は取り調べで容疑者を絞り上げ、得意の「鉄拳」をふるう寸前まで行ってたのだが、捜査本部から八兵衛に電話が入る。電話を受けた後の八兵衛は、うって変わってなだめるような口調になり、容疑者に、「○○君、怒って悪かった」と謝る。事件当時に容疑者は現場にいたはずはないという、確固たるアリバイが証明されてしまったのであった。 過熱して無実の人間をさらしものにしたメディアの暴走に対する批判も沸き起こり、後年、新聞の縮刷版からは、この事件の記事は削除された。大宅文庫でも、この事件の記事を検索することはできない。すでに封印され、風化した事件ではあるのだが、とんだことで人生を狂わされた悲劇の男を作ったということで、警察もメディアも決して忘れてはいけない誤認逮捕事件である。 そうそう、現金輸送車強奪というと、思い出すのが、1994年、神戸元町の福徳銀行で起こった強奪事件。この事件では、捜査の兵庫県警の刑事が、うちの親父のところまで捜査に訪ねて来た。 昔々、うちの祖父が元町に、猫の額ほどの小さな木造事務所を借りた。その後、うちの親父が賃借人となったのだが、誰も使わないまま、10年以上放置されていた。強奪現場からはすぐ近くの建物だが、事件後の警察の捜査で、ここに待ち伏せする犯人が潜んでいた形跡があり、借りてる奴が怪しいとなって刑事が来訪したのであった。 人相の悪いデカが、「おたくもずいぶんと銀行から借入れあるそうですなあ」なんて、まるで動機があると言わんばかりに疑いの眼差しであれこれカマかけてくる。嫌な目付きで根掘り葉掘り質問して、何度か来たらしいが、ホントに5億も強奪してたら、もっと羽振りがいいっちゅーの。ははは。 ま、もともと何もやってないからして、そのうちに嫌疑は晴れたらしいが、もしも「鉄拳」八兵衛が捜査してたら、取調室につれこまれて、「お前に違いない」と得意のゲンコツで、身に覚えのないことまで白状させられてたかもしれない。 なんだかんだいっても、昔に比べれば、警察も民主化されて、「オイコラ」式に捕まえて、あとは暴力で白状させるということが無くなったのは、実に結構な話である。 |