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2001/12/03 「白亜紀に夜が来る」 

「白亜紀に夜が来る」(ジェームス・ローレンス・パウエル/青土社)読了。『地質学で言う、K−T境界に見られるイリジウム異常は、白亜紀の終り、地球に隕石が衝突した痕跡であり、この衝突が、地球上で空前の繁栄を誇っていた恐竜の絶滅を引き起こした痕跡だ』というのは、最近はTVでもよく解説されてる説であるが、この説を提唱した科学者、アルヴァレス親子の研究の軌跡と、この説が大部分の科学者に認められるまでを描いたノンフィクション

アルヴァレス親子の父親のほう、ルイス・アルヴァレスは、ノーベル物理学賞を受賞した高名な学者。その興味は多岐に渡り、第二次大戦時のレーダーシステムの改良、ロス・アラモスでの原子爆弾プロジェクト、X線によるピラミッド探索、JFK暗殺のザプルーダ・フィルム分析と、次から次へとその興味と研究の対象を変えた。

その息子、ウォルターが専攻した地質学は、ルイスによれば2流の科学であったらしい。しかし、ルイスは、たまたま息子が持ちこんだ地層のサンプル分析の相談にのり、そこに説明のつかない高濃度のイリジウムの堆積異常(イリジウム・スパイク)を発見する。

ルイス・アルヴァレスは、このイリジウムが隕石由来のものであり、この隕石の衝突が、白亜紀の生物の大滅亡を引き起こしたのだという仮設を立て、その証明に晩年をささげることとなったわけである。

、ルイス・アルヴァレスは学会で、自説に異論を唱える人間を別室に呼び出し、「お前の経歴を破壊してやる」と脅すなど、科学者には珍しいポリティカル・アニマルな人であったらしいがそういう逸話もなかなか面白い。

また、このルイスは、エノラ・ゲイに同行した観測機に乗り、広島への原爆投下を自分の眼で見ている珍しいノーベル賞学者でもある。

隕石衝突説を思いついた時、彼の脳裏には、6500万年の昔、ユカタン半島に激突した直径10キロの隕石が、原子爆弾の何千倍ものエネルギーを火の玉として宇宙にまで放出し地球の生物を大絶滅に追いこんで行く光景が、原子爆弾の光と重なってクッキリと浮かんだであろうか。いや、彼は何もこのことについての連想は語ってはいないのだが。