「メソード演技」(エドワード・D・イースティ/劇書房)読了。 メソード演技については、NHKの特集番組を見た時に、過去日記でも書いたことがある。 "The Method"(メソード演技)とは、モスクワ芸術座のスタニスラフスキーが提唱した演技理論。「リアリティを創造する」演技を目指し、与えられた役柄になりきって、自らの内面の奥深くからその場に応じた感情の記憶を呼び起こして演じるという。 東欧生まれのアメリカ移民、リー・ストラスバーグは、メソード演技理論に傾倒して、1940年代、ニューヨークの「Actor's Studio」の芸術監督に就任し、俳優を集めたワークショップを開催し、数々の名優を育てた。 その教え子から、ジェームス・ディーン、マーロン・ブランド、ポール・ニューマン、ロバート・デニーロ、クリストファー・ウォーケン、アル・パチーノなどなど、綺羅星のごとく映画史上に残る名優が誕生する。 この本は、この「Actor's Studio」で10年以上ストラスバーグについて演技術を研究した著者が、「メソード演技」とはどういうものか、どういう訓練によって身につけるかを一般向けに解説した本。 端的に言うと、「The Method」とは、演技をするためのヒントでは無い。実体験の引き出しの中から、演技する場面に応じた記憶を直接呼び起こし、実際に「再体験」する。そして、その状況に対応するという、一種の記憶再構成、状況追体験の精神的テクニックと、その習得法なのであった。 メソード演技の訓練には、例えば、暑かった夏の日を思い起こし、その記憶を次々に思い出してゆくような課題がある。リアルな再体験に成功した訓練生は、椅子に座ってリラックスしたまま、身体中に汗をかくのだという。 暑さだけでなく、不安、怒りなどの感情の記憶を呼び起こす課題も数々ある。こうして、どんな体験でもすぐに追体験できる訓練を行うことにより、リアリティを演技に容易に持ちこめるようにするのが、ストラスバーグが教えている訓練である。 数々の課題をこなすには、まず椅子に座って身体の力をすべて抜き、完全にリラックスする。そして、課題となる「感情の記憶」、「感覚の記憶」を順々にたどってゆくのだが、読めば読むほど、この手法は、演技術というより、禅やヨーガの瞑想、あるいは催眠術に近い。すぐに思い出すのは、白隠禅師が開発した「軟酥(なんそ)の法」である。 メディテーションによって自らの無意識にアクセスし、自らの感覚や感情をコントロールする技術。段階的な訓練によってこれを身につけてゆく「メソード演技」の訓練は、一種の宗教的体験、厳しい精神修行といっても過言ではない。洋の東西を問わず、精神と肉体をコントロールしようとする探求は、だいたい同じ結論に達するという気がするなあ。 そういえば、マーロン・ブランドやデニーロ、ウォーケン、パチーノなど、メソード演技の名優達は、妙に求道的な印象がするのも納得できるのであった。 |