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2002/05/23 フーリガン戦記

「フーリガン戦記」 (ビル・ビフォード/白水社)読了。イギリスの大学に留学したアメリカ人の著者が、イギリスのサッカー狂(というよりも暴力狂か)フーリガンの只中に飛び込み、その実態をルポしたもの。

アウェイで訪れた他チームのサポーターに対する襲撃。料金を払わず交通機関を乗り継ぎ、チケットなしで会場に入るフーリガン達。詰込むだけ詰込んだ立見席で繰り広げられる、乱闘と殺傷事件。チームの選手権でイタリアに押しかけ、朝っぱらから、とてつもない量の酒を飲み干しながら、盗み、殴り、刺し、破壊し、ついには軍隊が動員されるまで乱暴の限りを尽くす彼らの行状は、まさに圧巻の一言。

本の帯には、「この衝撃は、『時計じかけのオレンジ』の世界だ」と書いてあるが、まさしくその通り。やはりエゲレス人は、肉食人種である。

フランスW杯で、ゲームが終わった後にゴミ掃除を始めた日本人サポーター達に驚愕したフランスの新聞は、揶揄交じりに日本人サポーターを「礼儀正しいチビ達」と呼んだ。フーリガンに慣らされてると、とても同じサッカーファンとは思えなかったに違いない。酒瓶は割る、ゴミは捨てる、前の客には小便かける。これが本場イギリスの地方スタジアムのマナーである。

イギリスのサッカー・スタジアムのひとつの特徴は、立見席だ。安い値段で、観客を詰込むだけ詰込んだ立見席。チケット無しで潜り込む輩も絶えない。乱闘や押し倒し事故は、ほとんどこの立見席で起こっている。それは、アリーナで、酒に泥酔してヒートアップしてゆく観客を飲みこんだオリだ。実際に、イギリスのサッカー場では、鉄条網で区切られ、試合が終わるまで出入りできないようカギのかけられる立見席があるのだという。

フーリガンは、イギリスが本場であるが、その理由を極北までたどり詰めれば、いまだに残る英国の身分制度によって、社会で這い上がれる見こみのない、スラムに住むワーキング・クラスの若者の欲求不満のハケ口となっているという点があげられるだろうか。

そして、白人至上主義を唱える、極右集団、ナショナル・フロントによるフーリガン層の党員への囲い込み。イギリスのサッカースタジアムでは、いまだに黒人選手がボールを持つと、「サル吼え」と称して、スタジアムのフーリガン達がサルの鳴き声を大合唱して黒人選手を侮辱する。この著者のアメリカ人の友人は、この人種差別に満ちた「サル吼え」を聞いて、気分が悪くなったのだという。日本では決して報道されることのない、イギリスサッカーの恥部。

サッカーにまつわる暴力は、おそらく、フットボールの元祖、村と村が対抗して、ひとつのボールを野原を駆け巡って奪い合う、ケンカ祭りのような、「マス・フットボール」という競技(あるいは祝祭)にまでさかのぼるに違いない。

しかし、同じフットボールでも、ラグビーにはフーリガンはいない。暴力はフィールドの中にあって、観客席にはないのである。サッカーは逆だ。ゲームからは、身体的接触が慎重に排除されている。しかし、暴力は観客席のほうに残った。

「ラグビーは、紳士がする獣のスポーツ、サッカーは獣がする紳士のスポーツ」という評は、そういう面で、ふたつのフットボールの性格の違いを実に的確に言い当てている。

アメリカ人である著者と、群集暴力担当のイギリスの警官との対話を描いた短い章も印象的だ。

著者に対して、この警官は、アメリカでのNFLの試合について尋ねる。

「観客全部にシートが用意されているというのは本当ですか?」
「試合が3時間も続いて、しかし、群集によるトラブルが起こらないというのは事実ですか?」
「アメリカンフットボールのスタジアムには、ごくわずかな警官しか配備されていないというのは事実ですか?」

これらは、すべて事実であるが、その返答を聞くイギリスの警官には、これがまるで別世界の出来事を聞いているかのように響いたらしい。同じアングロサクソンの国、同根のフットボール競技でありながら、これまた違うもんである。