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2002/07/16 「世界石油戦争 燃え上がる歴史のパイプライン」

「世界石油戦争 燃え上がる歴史のパイプライン」(広瀬隆/NHK出版)読了。広瀬隆は、原子力問題を扱った「危険な話」シリーズでも有名だが、同時に「赤い盾」等、ユダヤ系金融財閥が支配する欧米エスタブリッシュメントの世界を、丹念に系図を追って分析した著作でも有名。

この本は、中東の近代史を石油を巡る欧米の世界戦略とからめて振り返り、欧米列強の石油利権の支配と、搾取の歴史を明らかにするもの。

エネルギー源として、化学物質の原料として、世界は石油無しには1日も成り立たない。しかし、どういう神の悪戯か、全世界の原油埋蔵量の3分の2は、中東に偏在しているのである。本来ならば、石油と引き換えに全世界の富が中東に集まり、中東以外の国は全て貧乏になってもおかしくないはずだが、なぜそうなっていないのか。

植民地支配と搾取のノウハウに詳しい、欧米列強に数々いた知恵者が、ちゃんと自国の利益を守り、宝の山の中東を搾取する仕組を、歴史の中で、キッチリと作り上げていたのである。

石油開発は、欧米が経営支配権を持つ合弁会社で行い、まず欧米資本が利益を吸い上げてから中東産油国に分け前を払う。

分け前は、向こうの王様にだけ払う。いかに王様とはいえ、天文学的な金額の分け前は使い切れない。余る資金は欧米の巨大銀行に恒久的に預金され、欧米金融資本に還流し、欧米への投資へと戻ってゆく。

そして、死の商人が産油国に売りつける、ミサイルや戦車やジェット戦闘機。中東に紛争や緊張が高まるたびに、欧米に還流する巨額な中東からの資金。

OPECの設立後、欧米諸国との合弁石油開発は、ほとんど解消されたが、中東搾取の仕組はまだ存在している。王族だけは、信じられないほどの富を持っているが、国全体としては、活力も、なんの進歩もなく、いつまでもたっても後進国から脱却できない中東の悲劇。

この本のもうひとつの軸は、米国同時多発テロとパレスチナ紛争の深層。アメリカの巨大ユダヤ資本は、ロビイストを通じてアメリカの政治に強い影響力を有し、イスラエル批判は、アメリカ政界ではタブーである。イスラエルの生存権を脅かす政治家を落選させるためなら、ユダヤ資本は巨額の選挙資金を反対候補に喜んで投じる。パレスチナで流されている血はまた、親イスラエルのアメリカと、アラブ諸国を分断する呪いに満ちた血でもある。

個人的には、ユダヤ人がパレスチナ人を追い出してイスラエルを建国する権利があったとは思えない。たとえ聖書に書いてあろうが、千数百年前に住んでいた土地であろうが、現にそこに住んでいたパレスチナ人を追い出す権利は、ユダヤ人には無かった。

しかし、イギリスとアメリカが後押ししたシオニズム運動によって、いったん成立してしまった国、イスラエルを、ガラガラポンと無かったことにすることなど、神様でもなければ、できはしない。パレスチナ人には深く同情するが、もはやパレスチナ問題は解決不能なほどこじれてしまった。

広瀬隆の、世界を支配するスーパーパワーの家系図を遡って行く手法は、意外な人物同志が、親戚だったり、閨閥を形成していたり、なるほどと裏の事情が透けて見えるような気もして大変におもしろい。丹念によく調べたものである。本人の粘着質なところが透けて見えるところも興味深いのである。

もっとも、「金持ち同志が知り合いなのは当たり前でっせ」、「知り合いや親戚同士がお互いに協力しあうのも当たり前ですがな」と言われれば、ま、確かにそれまででもある。推論がセンセーショナルな割に、最後の1歩での説得力が無いのは、その論拠の奥底に潜んでいるのが、「ユダヤ陰謀史観」と同根の憶測であるからという気もするなあ。