MADE IN JAPAN! 過去ログ

MIJ Archivesへ戻る。
MADE IN JAPAN MAINに戻る

2003/03/23 「天ぷら『みかわ』 名人の仕事」

「天ぷら『みかわ』 名人の仕事」読了。日本橋にある「みかわ」は天ぷらの名店で、その主人、早乙女氏は「名人」とうたわれる職人。その早乙女氏が語る「天ぷら仕事」を対談も交えてまとめた本。編集者が前書で、「毒気の強い語り」と断っているとおり、辛口でアクの強い話が続く。

そういえば、「さとなおのおいしいお店」によると、この早乙女氏の前著「天ぷら道楽」は、「本当に嫌味で興ざめ」する本なのだそうだ。やはり、地が出ますな。はは。

もっとも、確かにアクは強いものの、不思議なことにそれほど嫌な気はしない。中卒で天ぷら屋に修行に入り徒手空拳、自らの努力と才覚だけで天ぷらの名店を作り上げた男の誇りと矜持であると思えば、自然に受け入れられる範囲ともいえる。そして、自分の「毒気」に対して一種のテレが感じられるのも、読むほうに一種の救いを与える部分でもある。

息をつめるようにして、細心の注意をはらって揚げたエビを、目の前に置いたとたんにトイレに立つ失礼な客がいる。そんな客の分は、それ以降真面目に揚げない、と言い切るのも自分の仕事に対する誇りである。カウンタでの「サラシ」の商売。真剣勝負してくる客にはいつだって、こっちも全力で満足させようと勝負を挑むという誇りがそこにはある。そのかわり、女性といちゃいちゃしたり、話に夢中で目の前に天ぷらが並んで冷めて行くような不真面目な客までは、オレは面倒みないよという小気味のいい割切り。

予約で座敷の広さや滞在時間や居心地を聞く客には、「うちは座敷屋じゃない。」というのだそうだ。料金にはそういう余分なものの料金は入っていない。天ぷらにだけに集中して食べてもらったら、絶対に損はさせないという自信でもある。定食の安いコースの材料は、同じに仕入れても先に死んでしまったエビを使うのだとか、料理屋の手の内をあっけらかんと明かしているのも、いさぎよくて面白い。

「すきやばし次郎」小野二郎氏との対談も、分野は違っても似た性質の職人であるからこれまた興味深し。寿司を出しても食べもせず、カメラを出して話している2人連れを、「せっかく温度調整して出してるのに、なぜすぐに食べないんだ。カメラは後にしてくれ」と小野二郎は怒ったのだそうだ。せっかくお金を払ってるのに、わざわざマズくして食べてお客さんが損だから文句言うのだ、ということである。真剣勝負の職人がやってる名店に行く時は、客のほうも心して行かないとダメということを再確認する本。