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2003/03/28 「赤頭巾ちゃん気をつけて」

会社近くの本屋で「赤頭巾ちゃん気をつけて」(庄司薫/中公文庫)を見つけたのは今週の月曜。まだ文庫で、絶版にもならず売ってるとは驚き。最初にこの本を読んだのは、もうずっと昔、私が高校生の頃。しかし、それもこの本が出版され若者に広く読まれてからずっと後だ。著者紹介を読むと、庄司薫は1937年生まれだから、もう66歳。いやはや。

会社の行きかえりで読了。読み進むとやはり覚えているもんで、やたらに懐かしい。もっとも、この小説の背景となっている、安保闘争やら学園紛争はまったく体験したことないのだが。

山手線の駅から徒歩で数分の自宅から日比谷高校に通い、家にはお手伝いさんがいて、テニスが好きで、聡明なガールフレンドもいて、兄貴2人は東大で、自らも東大を目指している受験生、「薫クン」が一人称で語るその日常。しなやかな知性にあふれた饒舌には、ふとしたことで粉々に壊れかねない、脆くも純粋で誠実な若さがあふれている。ページをたどりつつ感じる幽かな胸の痛みは、若さへの憧憬だろうか。

この小説を読んで常に思い出すのは、サリンジャーの「The Catcher In The Rye」。主人公、ホールデンの妹フィービーの役にあたるのが、「赤頭巾」では、ガールフレンドの由実と銀座で出会った幼女。しかし、「赤頭巾」には「赤頭巾」で、ある時代の日本を生きた青春と、普遍的な若さのもつ純粋さの両面が、あざやかに捉えられているという気がする。

そうそう、試みに、「サリンジャー+キャッチャー」で検索すると、「『ライ麦畑でつかまえて』が40年ぶりに村上春樹の新訳で登場」という宣伝ページがやたらに引っかかる。4月10日発売だそうだが、村上春樹も商魂たくましいですな。

でもって、これまた余談だが、「庄司薫」には、結構ファンのサイトがあって、なかには、この「赤頭巾」が芥川賞を受賞した時の選評まで載せているところがある。インターネット恐るべし。

しかし、川端康成は、この小説を評して、「(前略) 庄司薫氏の「赤頭巾ちゃん気をつけて」は、おもしろいところはあるが、むだな、つまらぬおしゃべりがくどくどと書いてあって、私は読みあぐねた。」と書いている。1969年に、すでにもう「おジイ」だったんだなあ。