夕方の「報道特集」。イラク国立博物館の略奪に関してのレポートが面白かった。 戦争終了直後の混乱で略奪され、収集品はスッカラカンになったのかと思っていたが、古代メソポタミア文明の出土品のような貴重な財宝は、市内の核シェルターやイラク中央銀行の地下金庫に保管され、無事だったのだそうだ。まあ、やはり、自国が戦乱下にあるのに、全ての収蔵品を放置してないよなあ。最初の報道がやや勇み足だったとも言えるが、それでも展示室に置かれていた物はほとんど略奪に会い被害は甚大であるらしい。まあ、しかし考えてみれば、ルーブルや大英博物館に並んでるのも、ほとんど帝国主義時代の略奪品みたいなもんなんだが。 「ポパーとウィトゲンシュタインの間で交わされた世上名高い10分間の大激論の謎」(デヴィッド・エドモンド、ジョン・エーディナウ/筑摩書房)読了。 1946年、ケンブリッジ大学のモラル・サイエンス・クラブは、カール・ポパー教授をゲストに招き、「哲学の諸問題はあるか」というテーマで討論会を行う。ケンブリッジの哲学教授だったウィトゲンシュタインやその師匠筋であるバートランド・ラッセルも出席したこの討論会は、ケム川のほとりに立つキングス・カレッジ、チャぺルに隣接する棟のH3という部屋で行われた。 この討論において、ポパーとウィトゲンシュタインの対立は2人の間に激論を呼び、激昂したウィトゲンシュタインは真っ赤に焼けた火かき棒を振り回したという、有名な伝説が生じたのであった。この本は、この「ウィトゲンシュタイン火かき棒事件」の真相を探るもの。事件の探索と同時に、実はお互いにオーストリア出身のユダヤ人であったポパーとウィトゲンシュタインの半生をユダヤ迫害の歴史と共に描き、今世紀中頃の哲学界の動向を俯瞰するノンフィクションとなっている。 頭の痛くなるような哲学理論には踏みこんでおらず、哲学者を巡る逸話集として読んでも面白い。ウィトゲンシュタインという人は、若くして天才の名を欲しいままにした哲学者であるが、社会や他者との関係に無頓着で奇矯な行動が多かったらしい。しかしウィーンの大富豪の家の出であったというのは初めて知った。なかなか興味深い本である。 |