「すきやばし次郎 生涯一鮨職人」(小野二郎/プレジデント社)をパラパラと。本というより、ま、写真集か。本の帯には「鮨の秘伝とその人生を語り尽くした小野二郎の『最終講義』」とある。 「天ぷら「みかわ」名人の仕事」という本がプレジデント社から出た時に、年末には「次郎」の本も出るとどこかに書いてあった。これがその本であったか。 しかし、山本マスヒロも「すきやばし次郎」の本を年末に出すとどこかで読んだのだが、この本にはマスヒロのクレジット無し。そうするともう1冊別に出るのかもしれない。息子への代替わりに向けて、大掛かりな宣伝をかねてるのかねえ。まあ、今出しておかなければ、もう相当なお年ではあるのだが。はは。 寿司の写真はしかし、実に美しい。種が大き過ぎてベロンと裾を引きずってるような寿司は、安いチェイン店でよく見かけるが、実に田舎臭いもんである。この次郎の寿司は、流れるような流線型で、寿司種も大き過ぎず小さすぎず、酢飯の微妙なバランスが美しい。 実際に訪問したのは一度だけだが、寿司種については実に上質。ただし、値段は高いし、お客の居心地を考えるような店ではない。お酒を飲む客を嫌うし、お客のペースにはおかまいなしに次々と自分のペースで握る。ゆったりと楽しい時間を過ごす店でないのは事実。接待やデートが目的なら、別の店に行ったほうがよい。実はそのことはこの本にも書かれている。ネットの評価を読むと、寿司慣れしない人の勘違いな逆恨みも目に付くが、ま、要は店の使い方の問題でもあろうか。純粋に握りだけを楽しむのなら、(話の種にもなるし)一度は行ったほうがよい店だ。 小野二郎38歳の時に作成した握りの折り詰と72歳で作成した折り詰の写真が並べられているのだが、72歳の作品(これは『旬を握る』の表紙になった)のほうが明らかに美しい。ある意味凄い話である。また、酢飯だけを何個も続けて握った写真も掲載されている。これが、まるでロボットが作成したかのように寸分の狂いがなく同じ大きさ同じ形。同じなのが凄いのではない。寸分の狂いなく握る技術が根底にあるからこそ、酢飯の量や固さを自在に調整することができるのだということが納得できる事が凄いのだ。 「旬を握る」が出てからの違いが書かれているのも面白い。バブルが崩壊し、接待で酒を飲む客や「お好み」の客が減り、「おまかせ」で頼む新しい客が増えたこと。タコは脚を1本ずつ茹でるようにしたのでいつでも人肌のタコが楽しめることなど。そういえば、マグロ仲卸を変えたこともさりげなく書かれている。長男が河岸でマグロ見ている写真に写ってるのは、フジタ水産ですな。 最後の店の紹介で、すきやばし本店の予算は、「2万5千円〜」となっている。お酒とツマミ入れたら3万円を超えるだろう。しかし、このデフレの時代に1名3万円は凄いもんですな。 |