「黒いスイス」(福原直樹/新潮新書)読了。毎日新聞記者でジュネーブ特派員を6年間勤めた著者が描くスイスの暗部。永世中立、治安がよく風光明媚な観光立国。国としての明るいイメージとは裏腹に、スイスという国はその歴史を詳しく調べると、外国人に対して排他的で残酷な顔を持っている。 国内に住むロマ族(ジプシー)の子供を組織的に誘拐し、施設に隔離することでロマ族の文化を殲滅しようとした運動。その組織に政府が多くの援助を与え、地方自治体や警察組織も荷担していたこと。第2次大戦時には、ドイツから流入するユダヤ人を判別するため、パスポートへ「J」のスタンプを押印するようドイツに強く要求したのがスイス政府だった。国境際でユダヤ人をすべて追い返し、ユダヤ人の虐殺を間接的に支援したスイス。核武装を計画し、プルトニウム抽出や核実験まで計画していたスイス軍。銀行の守秘義務の元に、世界中から犯罪に関係した巨額の金を吸いこみ隠匿し、マネーロンダリングに一役買うスイスの銀行。 普段、日本にいてはあんまり気にすることのないスイスという国の歴史や政府の暗部が描かれており、実に興味深い本。ドイツ、オーストリア、イタリア、フランスと国境を接し、国内にも複数の言語・文化が並存する苦に。天然資源にも欠け人口も多くない。そういう小国が、幾多の動乱を経た欧州でどのように生き延びてきたか、平和ボケした日本にいてはなかなか理解できないのも事実。美しいアルプスと観光客向けの笑顔の向こう隠れているのは、厳しい政治的権謀術数と外国人排斥意識だ。 |