「J.C.オカザワの銀座を食べる 銀座の名店200選」(J・C・オカザワ/晶文社)読了。同じ著者で「浅草を食べる」という本もあり、浅草のガイドとしてなかなか面白かった。 今回の本は銀座エリアを扱う。寿司、天ぷら、和食、フレンチ、洋食など、すべてのジャンルの飲食店をピックアップして200店舗を選んだレビュー。どのレビューも端的にまとまっており実に読みやすい。寿司屋についても造詣が深く参考になる。飲食店を観測するようでいて、本全体を「銀座」という街を俯瞰する評論として読んでも成立するのが優れた点。 個々のレビューに巧みに挿入された著者が経験したエピソードの数々も印象的。刺身のワサビを本ワサビに替えてくれと著者に言われ、「ウルサイ客が来た」と舌打ちしながらも渋々すりおろす職人に隣の仲間が、「おい、お前何やってんの?」と能天気に尋ねるシーン。店の素顔を端的に表す面白いエピソードを巧みにレビューと融合させて読ませるのは、やはり著者の筆力だろう。 時として店には耳の痛い事も書いている。しかし、決して客の都合だけ考えた無茶な要求ではなく、店の格や勘定に応じてフレキシブルにハードル・レートを変えて書いていることが分かる。アラを探してあげつらうのでなく、何をどう注文したら楽しめるかのヒントがあるのがガイドとして役に立つ。よいことも悪い事もそれなりに受容する大人の視点に好感が持てるというか。 この著者はアメリカ在住時代、アメリカ読売新聞に「れすとらん・しったかぶり」と称してアメリカのレストランガイド連載を持っていた。この連載は、私もアメリカ時代によく読んでいた記憶あり。NYのレストラン紹介が多かったが、行ったことない店でも面白く読ませたもんだった。月日は巡って、同じ著者の日本レストラン評が出版されるとは、これはこれで感慨深い。 取材ではなく自腹で飲食店に足を運んだ体験から書いたレビューとしては出色の面白さ。もっとも、掲載されてるのは題名とおり銀座の店だけだから、この地域に出てくる機会がなければ縁のない本ではある。 ちょっと前に、友里征耶の「シェフ、板長を斬る悪口雑言集パート2」を読んだのだが、こっちは第1作同様、あまり好きではない。途中まで読んだが、読後感悪く、結局最後まで読みきれなかった。 全編に渡って、推測やら決め付けによるアラ探しが目立つ。著者の性格の悪さが行間からにじみ出ているのは第1作と同じ。本筋とはまったく関係の無い悪口にも少々辟易。ま、この人はそれが売り物なのであるが。フードジャーナリストへの私怨に近い執着にもちょっとついてゆけないものあり。 そして、読んで一番脱力するのが、著者の貧弱な語彙と、まるで中学生の作文のような稚拙な日本語。本そのものも自費出版のような貧相な装丁で1480円は高いね。ご本人はレストランのコスト・パフォーマンスには異常なほどうるさいが、自著の本としてのコスト・パフォーマンスは実にオソマツ。私も「お勘定払うからには言わせてもらおう」。この本はCP低いです(笑)。 もっともこの赤表紙の友里「悪口雑言」本は、結構どこの本屋でも平積みになっている。ずいぶん程度が低いと感じるこの本に、手を打って喜ぶような層がそんなにいるとは信じられない気もするが、世の中ってのも不可解なところがあるからなあ。ま、しかし、私もつい金出して買ってしまったクチですが、「お勘定払うからには言わせてもらおう」←クドイな。この本はお金がもったいなかった(笑)。 |