「攻撃計画(Plan of Attack)〜ブッシュのイラク戦争〜」(ボブ・ウッドワード/日本経済新聞社)、残りを一気に読了。 何十名ものブッシュ政権内部関係者にインタビューを行い、イラク戦争に至るアメリカ政権中枢の決断プロセスに重点を置いて描いたノンフィクション。 著者はもともと、ウォーターゲイト事件報道でワシントン・ポストにピュリッツアー賞をもたらした敏腕記者。「大統領の陰謀」として映画にもなり、ウッドワードの役はロバート・レッドフォードが演じた。同じ著者に、湾岸戦争に至る経緯を描いた「司令官たち」、911テロからアフガニスタン侵攻までを描いた「ブッシュの戦争」などがある。どちらも読んだが、政権内部や軍に築き上げた人脈と情報収集力には驚く。記者になる前は海軍にいたという。 すべての判断の場に居合わせたかのような細かい情景描写。会話主体で出来事を描いてゆく手法は、まるで映画を見ているかのように登場人物の横顔を鮮やかに浮かび上がらせる。政権内部の葛藤や確執、混乱まですべてリアルに伝わってくるようで、実に面白い。膨大なインタビューと、その証言を縦横無尽に再構成し、真実に迫る卓越した編集能力が凄い。ブッシュ大統領本人にも数時間のインタビューを行っている 副大統領チェイニーの描写は、イラクに対する憎悪を燃やす人物として極端すぎるきらいもあるが、パパ・ブッシュとの関係、穏健派の国務長官パウエルとの確執と合わせ、パウエルの自伝「マイ・アメリカン・ジャーニー」を思い出して読むとこれまた面白い。 時間軸を克明に追ったこの本は、イラクとの戦争計画が、911同時テロ事件の2ヶ月後からすでに練られていたことを明らかにする。ブッシュはアルカイダとの関係を立証することなく当初からフセイン政権を崩壊させるつもりであった。しかしもっと恐ろしいのは、周到に練られた巨大な戦争開始計画がいったん立案されると、その計画の実行そのものが自己目的化してゆくこと。 この期日までにこの計画を実行しないと次の兵員導入計画が間に合わない、この時点に計画がここまで遅れると、すべての戦争準備が灰燼に帰す。ドミノ倒しのように計画が崩壊するのを防ぐのは開戦へと進む決断のみ。 すでに進んでいたCIAの諜報計画についても同様。強大な権力をもった独裁政権を内部で永遠に裏切るのは至難の技。3月開戦を暗黙の了解として活動していたイラク政権内部のスパイ達は、開戦が遅れれば遅れるほど発見され処刑される可能性が高まる。諜報網を壊滅させないためには予定通りの開戦しかない。 ブッシュは自ら命じた周到かつ秘密裏の戦争準備計画の巨大さに自縛され、飲み込まれてしまったような印象さえする。 興味深いのは、本の中で日本についてほとんど触れられていないこと。アメリカ政権中枢部は、イラク開戦にあたりイギリスの賛同を取り付けるため周到に気を使ったが、日本はまったく眼中になかったと思われる。もしも誰か側近が、「日本にも事前に相談したほうがよいのでは」とご注進したら、ブッシュやチェイニー、そしてラムズフェルドは、なんでそんなことをしなければならないのかと心の底からビックリしたに違いない。邪険にされても無視されても、ご主人の後ろをただついて行く。日本はアメリカの悲しい忠犬。 「911」とイランとの関係について調査を継続するとブッシュ大統領は先月発表。こんどはイランへの「Plan of Attack」が水面下で策定済みなのだろうか。そう、イランは悪の枢軸としてブッシュに名指しされた国家でもある。 |