「キャディに乾杯!」(リック・ライリー/ランダムハウス講談社)読了。 「スポーツ・イラストレーテッド」のライター、リック・ライリーが、著名プロゴルファーや有名人の元に勝手に押しかけ、ゴルフのゲームでキャディを務め、間近で見たその人物を紹介するという趣向の本。 自らはプレイしないが、プレイヤーの下僕・助手・相談相手・あるいは友人として、優勝の歓喜にも敗北の憤激にも、プレイヤーの一番近い場所に付き添う。キャディというのはなかなか面白い職業だ。ゴルフ以外のスポーツでは同じような存在はいないだろう。 著者が新米のキャディとして引き起こす数々のヘマも面白いが、横でキャディとして付いて歩かなければ分からないような、有名人の素顔を鮮やかに描き出している部分がこの本の圧巻。ゴルフを通じてそれぞれの人生が浮かび上がる。 いつも沈鬱なデビッド・デュバルの「厭世」ぶり。「帝王」ジャック・二クラウスの「王」たる振る舞い。「メジャーを制覇したアル中」ジョン・デイリーのまさに破天荒なスチャラカ人生などなど。臨場感あふれるエピソードを豊富に交えてユーモラスに紹介されている。 取り上げられているのはプロ・ゴルファーだけではない。アメリカの不動産王、ドナルド・トランプもその対象。自分が所有するゴルフ場で自分が好きにプレイ。彼がプレイ中にゴルフのスコアをごまかすところも著者はしっかり記憶している。パー5。4打目でピンそばに寄せたトランプは、「ナイス・バーディー! すごいだろ?」と言いながら、相手のOKの合図も待たずにボールをウェッジですくい上げた。ケロっとしてこれくらいはやれないと富豪にはなれない。そう感心するシーンでもある。 小さなエピソードから対象人物の人となりを彷彿とさせる描写手法は、なんだかボブ・グリーンのエッセイを思い出す。そういえばボブ・グリーンは事件起こしてからもう復活の道を絶たれてしまったのだろうか。 翻訳上の小さな難点は、翻訳者がゴルフに詳しくないせいか、ところどころ意味の通じない文章があること。もっとも普通に読むにはまったく支障にならない。実際のところゴルフを知らない人が読んでもきっと面白い本だ。 |