「反社会学講座」(パオロ・マッツァリーノ/イースト・プレス)読了。あちこちの本屋で平積みになってるから、結構売れてるのだ。 「少子化が進むから子供がキレる」、「テレビゲームが蔓延したからキレる子供が増えた」、「フリーターが国を滅ぼす」、「昔の人間は勤勉だった」。いわゆる「 社会学者」が並べるこういった言説は、社会学者自身の個人的価値観を適当な思いつきで補強し、都合のよいデータだけ並べてみせたまったくのデタラメである。そういう主張がデータとユーモアを交えて展開されており、実に面白い本。「スタンダード 反社会学講座」というWebの連載を書籍化したものだとか。 特に、「最近の子はキレやすい」、「近年、少年犯罪が増加している」という言説に対しての反論が痛快。なんのことはない、日本の歴史で一番犯罪ばかりしていた少年達は、ちょうど団塊の世代から上。現時点で60才を前後とした年代であることを犯罪統計を元に解明する。 テレビゲームもインスタント食品もホラー映画もなく、核家族化も進展していなかった昭和20年代や30年代の少年のほうが、現代の少年よりも、強盗、殺人、窃盗、強姦、すべての犯罪をたくさん犯していたのである。 「ホントは昔のガキのほうがずっと悪かった」、というのは意外に知られていることでもあるのだが、あまりメディアでは報道されない。昨今の少年犯罪をセンセーショナルに報道する時に水を差すということもあるが、社会の権力を握る高齢層の常識に反するということで葬り去られているのではないだろうか。 そういえば、下町深川で生まれ育ったという大正世代のタクシー運転手が言った言葉を思い出す。「みんな明治の人は気骨がある、立派だ、なんて誉めますがね、私に言わせりゃ、あんないい加減でどうしようもない連中もいませんでしたよ」とのこと。昔がよくて今はダメと何の分野でも言われるが、ま、大部分において根拠無き幻想に過ぎないのだろう。 もっとも、従来の社会学の言説を無条件に信じるのは愚かなことであるのと同様に、冗談まじりに述べられたこの本の反論をも無条件で盲信するのは愚かなことかもしれない。すべては自分の頭できちんと考えてから。著者の究極の主張も結局はそういうことである。 実に面白い本であるが、一点だけ気になるもは著者の名前。これが本名のはずないよなあ。せっかく面白い本なのに、どうしてここまで本名を隠す必要があるのだろうかがちょっと不思議。おふざけとしか取れないプロフィールには大学講師とある。確かに学問系の人のように思えるが、名前が知れるとやはり相当悪いことがあるだろうか。 |