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2004/11/22 「レオナルド・ダ・ヴィンチという神話」

「レオナルド・ダ・ヴィンチという神話」(片桐頼継/角川選書)読了。レオナルド・ダ・ヴィンチは、ルネサンス時代を代表する「万能の天才」として神格化されている。しかし彼の残した完成品の絵画は実に数少ない。本当に当時の宮廷においても、レオナルドは天才として遇されていたのか。近年になって進んだレオナルド関係の文献研究の成果にのっとり、史的なレオナルドの実像に迫ろうという本。

当時の普遍的手法であったフレスコ画をレオナルドが描いていないのは、彼の修行期間が短くフレスコ画を書く技量を身につけていなかったのでは、というのが著者の推量。彼の手稿に残る数々の発明品のアイデアも、すべてが彼の独創ではなく、当時すでに知られていた物の模写にすぎない場合もある。発明品のアイデアには実現不可能なものも多く、実際の発明家というよりも、自由なイメージ・クリエーターとしての側面が強い。著者が提示するレオナルド像は、後世に神格化された偶像よりもおそらく実像に近いものなのだろう。なかなか興味深い。

同時代に生き、同じく天才として並び評されるミケランジェロは、建築、彫刻、絵画のすべてに渡って素晴らしい作品を数々残している。しかし、凝り性で実験的試作に熱中し、何度も何度も構想を捨てては練り直すレオナルドには、膨大な習作のデッサンは残るものの、完成した仕事はほんのわずかしかない。アイデアマンであったが、物事を完成することにはあまり興味はなく、次々と新しいことに取り組む。それでも、「最後の晩餐」と「モナリザ」の2作で世界に永遠に記憶される巨匠となったのであるから、芸術の世界も興味はつきない。気軽に読めるがなかなか面白い本だった。