「世間のウソ」(新潮新書/日垣隆)読了。買ってしばらく読む機会がなかったのだが、いったん読み出すと薄い新書であるからあっけなく読み終えた。 警察が家庭内暴力に関与したがらない時に使う「民事不介入の原則」などというものは実はどこにも根拠がなかった。殺人者に対する精神鑑定など意味がない。徴収した電話加入権を返還しないのは詐欺である。世界のマーケットで値がつく日本人画家は皆無。日本の「裁判員」制度は裁判官の既得権だけを守る正義の実現とは関係のない「珍制度」。などなど、いわゆる「世間の常識」あるいは「思いこみ」に対して素朴な疑問を抱き、検証することによって異を唱えるという軽めのエッセイを収録。 「そして殺人者は野に放たれる」、「偽善系」、「エースを出せ」など、従来の著書の主張と重なる部分も多々あるが、主張は明快で読みやすく面白い。ただ、反論者にうっかりすると足をすくわれかねないような単純な割り切り断定も目立つ。従来の著書はかなり慎重に調査を重ね、データも収集していたのだが、やはり新書ということもあり、いくぶん気楽に書き飛ばしたという部分もあるような。 著者の年来の主張である、加害者の人権だけが地球より重いと考える「人権屋」批判。心神喪失を乱発し、殺人者への刑罰が軽い日本の裁判制度批判については、限定的かもしれないが確実に世論にも影響を与えている気がする。ひょっとすると、昨今の刑事事件判決で、凶悪犯罪への厳罰化の傾向が見られるのもその反映かもしれない。そういう意味では世の中は変わりうる。そう考えると、なかなか興味深いことである。 |