MADE IN JAPAN! 過去ログ

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2005/04/09 「女たちよ!」

忙中閑あり。ちょっとだけ復活して更新。「ヨーロッパ退屈日記」を本棚から探し出して再読してから、どこかで無くしてしまった「女たちよ!」(伊丹十三/新潮文庫)を再購入。カバンに入れて通勤の行き帰りに拾い読み。

この本を最初に読んだのはもうずいぶんと昔。「ヨーロッパ退屈日記」の内容を更に濃くして敷衍した続編のようなエッセイだが、この本からは実に色んなことを学んだし、ずいぶんと影響を受けたことを久々に再読してあれこれ思い出した。

スパゲティをアル・デンテに茹でる、アヴォガード、プロシュートとメロンの前菜、フランスで食べるパンの美味さ、イングリッシュ・ティーの入れ方、正しい車の運転、ヨーロッパの文化あれこれ。今ならば、誰でも知っているウンチクのように思えるが、この本の初版は1968年である。しかも、このエッセイに書かれていることは、本や雑誌の受け売りではない。若き俳優、伊丹十三が、外国映画出演のためにパリやロンドンに住み、ロータス・エランをパリで購入してヨーロッパをドライブし、ピーター・オトゥールを始めとする英国人、フランス人、イタリア人から直接聞き、そして体験したことである。当時の日本でこんな本はまずなかったに違いない。

私は、「センス・オヴ・プロポーション」という言葉をこの本で覚えた。「大統領が民主党なら、議会は共和党が多数派になるというのは、ある意味、アメリカ政治の健全なセンス・オヴ・プロポーションだと思っていたけど…」などとアメリカ人の弁護士と雑談する時に使うと、向こうはちゃんとフムフムと聞いている。その他にも役に立つ雑学満載の本でもある。

爪楊枝で握り寿司を食う客がいた話、料理を盛る前にオーブンで皿を温める話、辻留流包丁の持ち方、掲載されている話はどれも記憶に残っている。当時この本を何度も読み返したのを、懐かしく思い出した。海外への憧憬を始めて私の心に刻み込んだのは、今にして考えると、伊丹十三の数々のエッセイであったかもしれない。植草甚一はあんまり好きではなかったのだけど。

海外の文化を咀嚼し、何がホンモノかという徹底した自らの美意識とプリンシプルで整理しなおした男が語る、原理原則を重んじ筋を通したエピキュリアンの意見と生活。幾分、内容的に古くなった部分もあるものの、「キャッチャー・イン・ザ・ライ」同様、若い時に読むべき本だ。ただ、まあ今となってみると、著者の悲惨な最後というものが胸を暗くそして苦くよぎる訳ではあるのだが。

もともと「ヨーロッパ退屈日記」も「女たちよ!」も文春文庫だったのだが、今回は新潮文庫に移籍して復刊。伊丹十三のエッセイでは、「日本世間噺大系」も面白かった。「小説より奇なり」も忘れがたい。そうそう、「フランス料理を私と」いう、全編写真入りの料理入門と対談をかねたような美麗本も印象に残っている。しかしどれもすでに手元に無し。版元でも絶版のようだ。Amazonで検索すると、マーケットプレイスでは古本を入手できるようだが、どうも他人の手ずれした本ってのは好きじゃないんだなあ。どこかで、こういうのも復刊してもらえないだろうか。