「失踪日記」(吾妻ひでお/イースト・プレス)読了。「全部実話です(笑)」と副題にもあるのだが、人気漫画家、吾妻ひでおが、仕事を放り出して突然の失踪をしてからのホームレス生活、社会に復帰したがアルコール中毒になっての強制入院と、まさに凄まじい流転の生活を自ら回想した漫画。 鬱がこうじて突然失踪した吾妻は、森の中で腐った毛布とむしろをひろって野宿。捨ててあった天ぷら油を飲んだり、ゴミ箱をあさってカビの生えた饅頭を拾ったり、野生の大根を齧ったり。冬場なのに野外生活で何週間も暮らした。しかし家族からは捜索願が出されており、食料を拾いに出たところで警察に保護される。笑い飛ばすように書いてあるが、実に凄い話である。 その後、社会復帰するが再び締め切りを落として失踪。また森に住んでホームレス。しかし、ふとした縁でガス配管工になって暮らしていたというのも唖然とするが、この本の後半、漫画家生活に戻るも、連続飲酒からアルコール中毒になり強制入院となるエピソードもあっけにとられる。 日本酒を、朝2合、昼3合、夜1升。翌日起床すると当然吐くのだが、3回吐くとまた飲めるようになる。身体を極限まで痛めつけながらの連続飲酒の果てに、最終的には幻覚が出て強制入院。中島らもでさえ確か幻覚は出てなかったのでは。日本人は幻覚出る前に体壊して死ぬのが多いとどこかで読んだ記憶があるが、ホームレス野外生活といい、この人は変な話だが、実に身体が頑強だ。もっともいくら身体が頑健でも精神はまた別。ギャグマンガは常に自己模倣との戦いで、仕事に追われると、内にこもって精神は極限まで追い詰められてゆく。マジメすぎるほどそうなる、と著者はカバー裏のインタビューで述べている。 失踪したり壊れてしまったマンガ家というのは著者以外にも結構いるらしい。そういう面では、極限の生活に陥りながら、無事社会に生還した著者は幸運だったと言えるだろうか。それにしても全編に渡って凄まじい話だが、笑い飛ばせるようなマンガに仕上がっているところが素晴らしい。まあ、それさえも著者を追い詰めたギャグマンガ家としてのしみついた性分なのであろうが。 アル中病棟での拘束衣の恐怖や、他のアル中患者との交流部分も興味深い。アル中の治療はたったひとつ、永久に断酒することしかないそうだが、現在も進行中のアル中との戦い部分は、また続編で描かれるのだそうである。 |