Perthから帰りの機内で「The 9/11 Report」を読んでいたが、やはり内容的には飛行機の中で読むには適してない。<当たり前か。半分ちょっと読了したが、後半はまた後日に。しかし日本に帰ってくると英語の本を読む気力が萎えるなあ。 National Commission on Terrorist Attacks Upon the United States、911同時多発テロ事件に対する調査委員会が作成した事件に関する公式報告書。後半部分は今後のテロ対策に対する政策提言となっている。発売と同時に、アメリカAmazonでベストセラーになった。全文はネットでも公開されているのに、本を買う人がこんなに多いのは奇妙と新聞で読んだが、やはりプリントアウトするのと印刷した本ではぜんぜん読みやすさが違う。そもそも全文をプリントアウトしたら、そのほうが金かかるのでは。 読み始めて感心したのは、このレポートが実に読みやすい平易な英文で書かれていること。Newsweekよりも更に読みやすい。日本のお役所が作成した「なんとか白書」は読んで眠くなるようなのばかりだが、このレポートは読み物として成立している。4機の航空機がハイジャックされる経緯をまとめた冒頭部。時系列を追いながら同時平行で、それぞれの便に何が起こったかを淡々と記述してゆく文体は、こう言ってはなんだが、ハードボイルド・ノベルか映画のシナリオを読んでいるかのよう。 FBIの調査やFAAの交信記録などから再構成した事件の詳細は、事実にしかない奇妙な重みに満ちている。順不同で思い出したことのみ。( )内が私の感想。 ・アメリカ国内の航空機チェック・インに際しては、全乗客がCAPPS(Computer Assisted Passenger Prescreening System)というシステムでスクリーニングされることになっており、主犯アタのチェックインに際しても、本人搭乗後にチェックインした荷物を積み込むクラスとして分類されていたが、犯行を防ぐ手立てにはならなかった。(こんなスクリーニングがされてるとは知らなかった。おそらくアラブ系のパスポート・ホルダーはみな同様のフラグが立つようになってるのだろう。そういえば、よく出発が遅れるアナウンスで、「荷物の積み込みに時間を要して」とか「お客様のご到着を待って」とかあるが、爆弾だけ積み込むテロ回避のこんなチェックがかかってた場合もあるのだろう) ・ハイジャックは、乗客からの多数の航空電話によって発生からすぐに報告されている。(飛行機で携帯がつながるはずないなどとのトンデモ系「陰謀説」があったが、アメリカ国内線の飛行機には10年ほど前から、ほとんどの座席の背にGTE AirPhoneが設置されており、飛行中も通話は自由だ。もっともこの報告書に採録された、最後の瞬間に交わされた痛ましい会話を読むと、電話が通じることが幸せなことなのか結論は出ないのだが) ・乗客の報告によれば、ハイジャックの凶器は刃物と爆弾を所持しているという脅し(爆発物そのものは未確認)であり、フライトアテンダントをまず刺して全員を威嚇し、パイロットは殺害されたものと思われる。(しかし、なぜ刃物が持ち込めたのか。そこが不可解だ) ・犯人達は、機内放送を行うインターコムの操作方法が分からず、「静かに席についていろ」という乗客向けの機内放送をするつもりで無線を発信し、この発言を管制塔が受信している。(ハイジャックされた航空機は、ボーイング757と767。ゲームのジョイスティックのようなバーで操縦し、ほとんどの操作がコンピュータ制御となっているエアバス機は、テロリストの手に余ったのだろうか。そしてなんとか操縦ができても、無線や機内放送の操作まではやはり分からなかったのだ) ・FAA(連邦航空管制局)のコントロールセンターの記録には、「アクセントの問題かもしれないが、彼ら(テロリスト)は「we have planes」と言ってるように聞こえるんだ」という会話が残っている。(plane(単数)ではなくplanes(複数)。テロリストが複数の航空機を支配した。それが日常を急に襲う恐怖の始まりだったのである) ・ハイジャックされた航空機をインターセプトし撃墜することについては、チェイニー副大統領が確かに承認している。しかし実際には迎撃は間に合っていない。(乗客の反乱によって墜落したUA93便は実は撃墜された。ペンタゴンに突っ込むはずだった飛行機も撃墜され、ペンタゴンで爆発したのはミサイルだ、などとあれこれトンデモ系「陰謀説」があるが、撃墜命令の存在を公表した上で撃墜を隠してもアメリカ政府は何の得もしない。根拠に乏しく理屈に合わない、信用するに足りない説だ) ・ニューアーク発UA93便は、ハイジャックされたが、乗客が反乱を起こし、ホワイトハウスに突撃するという目的を果たさずにペンシルバニアに墜落した。テロリストに立ち向かう直前、多くの乗客がAirPhoneで家族に電話をかけている。ある乗客の最後の会話として、「Everyone's running up to first class. I've got to go. Bye.(みんなファーストクラスのほうに走って行く。私も行かなきゃ。じゃ)」と記録されている。回収されたボイスレコーダーに記録された操縦席外の怒号と混乱の音声に、自らの家族の声をはっきり聞き取った遺族が何組もいたそうである。(この電話をした勇気ある乗客が女性であることにまず感嘆。パイロットはすでに殺されており、乗客がテロリストを鎮圧しても、墜落はまぬがれえなかっただろう。しかし、彼らはおそらく暴力で自らの自由が制圧されることに耐えられなかったのであり、アメリカの何かを確かに救ったのだ) 全般的に重たい本であり、長い休暇が終わった後では後半部分を読みあぐねて机に積んである。この手の報告書ってのは翻訳本が出るのだろうか。あんまり見たことはないような。 |