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2005/05/19 「神狩り2 リッパー」

「神狩り2 リッパー」(山田正紀/徳間書店)読了。

前作「神狩り」を初めて読んだ時には新鮮な衝撃を受けた。古代古墳の玄室で見つかった古代文字。連想コンピュータを駆使し、その文章に含まれた論理記号と関係代名詞を分析することによって、この文字を書いた人類を超える知性の存在を感知する情報工学の天才。神を追い、謎が深まるにつれて浮かび上がる超越的存在の影。著者が若い時の中篇であるが、着想と衒学的知識が上手く収まった印象的な物語。過去日記でも再読した時の懐かしい感慨を記載してある。

そして、この「神狩り2」は、前作の発表からなんと30年を経て出版された続編。確かに前作は途中で終わっているかのような印象であり続編が待たれた訳なのだが、それにしても長いブランクではある。山田正紀はSFを離れ、冒険小説やミステリーの世界を長く放浪していたのであった。

人間の脳を遺伝子から操作し自らを認知されないようにした「神」。イエスは失敗した神への反逆者。キリスト教は「神」によって換骨奪胎されて人類から奪われた残骸。人類の脳に隠された機能を発火させる「知恵の木の実」。現実世界に現れ、破壊と破滅をもたらす天使。大脳生理学と「クオリア」、ナチスのホロコーストとハイデッガー。まるで「デビルマン」やら平井和正の「幻魔大戦(どの幻魔大戦かという問題もあるわけであるが)」を思い起こさせるようなシーンもあり。

読後に物語の構成要素を思い出すと、イマジネーションを飛翔させるギミック満載。一気に読了したし、SFが好きなら一読の価値がある水準以上の作品であると思う。しかし同時に、読み終えた後でなぜか「山田正紀は、こんなもんだったのかなあ。もっと凄かったはずなのだが」という釈然としない気持ちが少々残るのも正直なところ。多分それは、昔の「神狩り」に衝撃を受けた度合いが強いほど、大きいかもしれない。昔、感銘を受けた本ってのは、よいところばかりが結晶化するんだよなあ。

例えば、全体に文章が饒舌すぎて物語のスピード感を阻害している。「それは果たして、○○○なのであろうか、いや、そうではなく実はXXXなのではないか……」などと、いったい誰が誰に話しかけているのかわからないような正体不明の詠嘆(そう、なんか講談師の講釈にも似ている)が延々と続く部分はどうにも違和感あり。もともと、長かったものをかなり削ったと著者あとがきにあるのだが、上記のような「あ〜でもない、こ〜でもない」部分をバッサリ削ったら、文章は半分くらいになってずいぶんとスッキリしたと思う。逆に物語を削った編集上の関係か、ところどころ前後の脈絡が繋がらない部分も気になった。

もっとも、冒頭部分を飾る「天使の飛行」を始め、物語の中には印象的なシークェンスも多いし、福音書マタイ伝のキリスト最後の言葉にインスパイアされたセリフが記憶に残るラストシーンも、十分なカタルシスを持って成立している。SFはミステリーではないから、犯人が誰かとか、最後に捕まるかどうかとか、トリックがどうとかはどうでもよいわけで、読んでどれだけイメージが現実を超えて飛翔するかがひとつの価値。そういう面では、SF好きなら一読の価値はあるよい作品であるのだが。しかし、昔の山田正紀なら…。<まだ言ってます。