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2005/06/09 「西武事件〜堤家支配と日本社会」

「西武事件〜堤家支配と日本社会」(吉野源太郎/日本経済新聞社)読了。

ちょっと前の「日経ビジネス」に、元セゾン・グループ総帥、堤清二への単独インタビューが掲載されていた。すでに経済界から身を引き、表舞台に戻るつもりなどさらさらないと語る堤清二は、しかし、コクド名義株について、明らかに相続対策のために使用したもので(その善悪は別として)、実質的には堤一族のものに相違ないという事実を淡々と語っている。このインタビュアーが著者の吉野源太郎。この本は、日経ビジネスの特集記事を元に西武事件の奇妙な顛末と西武グループを通して見た日本の戦後経済を振り返るノンフィクション。

西武鉄道の過半数を支配するコクドの株主には相続税逃れの多数の名義株が存在するものの、堤清二や堤義明の兄弟の証言通り、過半数が実質的に堤家の支配にあったに違いない。だとすると、西武改革委員会はいったい誰から権限を付与され、誰の承諾を得て、コクドの既存株主の株主価値を希薄化するような西武グループ再建案を決めたのか。

改革委をまかされた諸井委員長は、「なんだかんだいっても天下国家を考えるのは銀行だよ」と語ったそうだが、いかにも興銀OBらしい銀行中華思想。しかし、もしも天下国家を考えるなら、西武の王様が証券取引法違反で逮捕されてから、あるいは合併によって西武・コクド向け貸付が倍増してからあわてるのではなく、バブルの前から後まで、無担保で巨額な金を融資し続ける際に、もっと「天下国家」を考えておくべきだったのだが。

西武改革委員会の再建案については、西武の王様が証券取引法違反で逮捕されたことを奇貨とした、銀行による体のいい西武王権の簒奪であると何度もこのページに書いてきたが、この本を読んでますますその印象を強くした。

堤義明がまだ若き経営者としてもてはやされていた頃の取材など、長く日経の記者を勤める著者でなければ書けないエピソードも興味深い。西武事件の現状を中間報告すると共に、バブル経済と土地本位制の崩壊、祭り上げられたワンマン経営の陥穽、能力に欠ける息子が後を継ぐ世襲経営の落とし穴、金融ビッグバンと貸し手責任など、戦後日本を鳥瞰するドキュメントとも読めるところが面白い。もっとも、早く出版しなければということで、だいぶ慌てて書き足した部分もあるようだが。

臨時株主総会後、銀行から派遣され、西武鉄道を支配することになった新経営陣は、改革委員会の改革案について「あれは叩き台」と発言し、一歩後退し様子を見ているように伺える。いくら銀行と言えども、衆人環視の中で堤家の財産を全て盗むのはちょっと難しいということか。外資と手を組んだ堤義明の逆襲はあるのか。村上ファンドの株主代表訴訟をちらつかせた恫喝。義明兄弟からの名義株所有権を巡る訴訟。西武事件の今後には、まだまだモメる材料が山積み。どうなってゆくことやら興味深い。