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2005/09/02 「スペースシャトルの落日」

風邪を引いたか体調不良。本日は飲まずに早々に帰宅。

「スペースシャトルの落日」(松浦晋也/エクスナレッジ)読了。今週、本屋でたまたま手に取ったもの。

著者は航空・宇宙関係を専門とするノンフィクション・ライター。アメリカが開発したスペース・シャトル計画には、そもそも最初から設計コンセプトに大きな間違いがあり、巨額の開発費をムダに使った世紀の大失敗プロジェクトであったことを説いた本。読みやすく、なかなか面白い。

オービターに翼は無用だった。人間と荷物を一緒に打ち上げる設計によって安全対策が難しくなった。何にでも利用できる汎用性を求めた為、オービターは逆に何に使うのも困難になった。再利用可能なシステムが必ずしも安上がりとは限らない。著者の論旨は明快で、示唆に富んでいる。読むと確かに頷ける話ばかり。

当初コンセプトの誤りから、プロジェクト遂行にあたり安全上の問題点が次々に発生し、それに泥縄で対応するために巨額の追加費用と時間を要した。その影響で、宇宙ステーション計画や外惑星探索プロジェクトが遅延を重ね、全世界の宇宙開発・研究が大きな停滞に見舞われた。これも著者が指摘するスペースシャトル計画の悪影響。

アポロ計画終了以降、予算獲得と組織維持のため、世間の注目を集めるプロジェクトを必要としていたNASAと、大型受注を欲していたアメリカ航空宇宙産業双方の利害一致から生まれた巨大プロジェクトがスペースシャトル計画。しかし、その内実がこんなにオソマツなものだったとは。

シャトルのペイロードは100トンあまり。しかし、打ち上げてまた地球に帰還するオービターだけで70トンある。重心やロケットの制御を考えると、実際に宇宙に運べるのは20トンを切る。実に効率の悪い運搬手段。地球周回軌道に人間を打ち上げて、使い捨てのカプセルでパラシュートにより地球に帰還するというのは、ロシアのソユーズでもいまだに採用されているすでに円熟した技術であって、安価に実現できる。重たい荷物はサターンで別途打ち上げる案と併用すれば、シャトルを使わずとも、今頃宇宙ステーションは安全にもっと立派なものが完成していただろうと著者は言う。

安全面についてはどうか。「チャレンジャー」の事故後、調査委員会を率いたノーベル物理学者、ファインマン博士は、シャトルが致命的な事故を起こす確率は10万分の1だというNASA幹部の話を聞いて唖然とする。アメリカ技術評価局の見積もった確率は50分の1。NASAは後に500分の1だと訂正した。実際には、(この本が出版された時点で)113回の飛行に対して、全クルーが死亡するという致命的大事故が2回(「チャレンジャー」と「コロンビア」)起こっている。どの推定が正しかったのか誰にでも明らか。先日の「ディスカバリー」の地球への帰還にしても、単なる僥倖だったのかもしれない。

まあ、しかし、計画が発表された頃には、何度も自由に宇宙と往復できるシャトルというのは、SFの世界が現実になるような夢ある話に思えたがなあ。翼のあるデザインも、宇宙船として確かに斬新だった。キューブリックの「2001」の冒頭に「パンナム」のロゴが入ったシャトルが地球上空の軌道に浮かんでいる場面があったのを思い出した。