だいぶ前に読了した、「アースダイバー」(中沢新一/講談社)だが、感想を書き忘れていた。最近、平積みで置いてある書店も多い。5月の初版からジワジワと部数を伸ばしているようだ。 「アースダイバー」とはアメリカ先住民の神話なのだそうで、原初の世界、カイツブリが海の底まで潜って取ってきた一掴みの泥が我々の住む陸地の始まりなのだというものらしい。著者、中沢は、今よりも海岸線が陸地深く入っていた縄文海進期の沖積層と、その当時でも陸地だったはずの洪積層を知人の地質学者が塗り分けた手製の「縄文地図」を手に東京を歩く。 この「縄文地図」に、神社・仏閣をプロットすると、その場所が縄文期の陸地の端、あるいは岬に集中していると中沢は言う。これは明らかに縄文海進期の遺跡、スピリチュアルな場所が後に伝えられ、現在の東京の基礎になっているのだと。その仮説のもとに、東京を巡り、「縄文地図」から土地そのものが持つ力をサイコメトリーのように読み取り、そこに秘められたまるで自縛霊のような霊的力を読み取ってゆく紀行。風水で言う「龍脈」やら、イギリスの「レイ・ライン」なども想起される独特の中沢ワールド。 全般的に見て根拠薄弱な主張も多く、悪く言えば著者個人の思いつきに過ぎないのだが、よく言えば著者の神秘的イマジネーションが炸裂する世界。写真も満載。もともとが週刊誌での連載だったということで、分かりやすく、とっつきやすく、コマーシャリズムや世渡りの上手さを感じるのも面白いところ。書いてあることが本当に正しいかと問われるなら、もちろん疑問符がつく。しかし、エンターテインメントとして実に面白いところに価値がある。巻末折込の「アースダイビング・マップ」など見ると、城東・下町エリアなどは縄文の昔はほとんど全て海の底だった訳で、なんとも不思議な感慨。 そうそう、著者の往年の有名作に「虹の階梯」がある。チベット密教寺院に本人が住み込んで修行した体験を描いたドキュメント(?)で、あのオウムの麻原ショーコーもネタ本にしていたと何かで読んだ。確かに面白い本なのではあるが、果たして日本人がチベットに行って、外国語など話せるはずもないチベット密教寺院の高僧の話をあそこまで理解できるものなのか。冷静に考えると、あの本もアカデミックというより詩的な雰囲気を感じる著作。やはりずいぶんと本人の自由なイマジネーションの飛翔が含まれているのではと、今更ながら疑問など沸いてきたりするのであった。 |