「売文生活」(日垣 隆/ちくま新書)読了。 「偽善系」、「世間のウソ」、「そして殺人者は野に放たれる」など、気鋭の論客として数多い著書を出している著者が、作家、ライターなど文筆で生計を立てる人々を取り上げ、文筆業の採算について書いた本。お金の面から語る一種の作家・文化論ともなっている。 プロの作家であっても、原稿料の事はあからさまに語らないのが美徳というものらしい。しかし、日垣隆は原稿依頼があると、「で、幾らですか?」と必ず原稿料を確認する。文筆だけで生計を立てると決心した時に同時に決めたポリシーで、売文のプロとしては当たり前の事だとのこと。確かに、言われてみればその通り。 原稿料だけでは食えない。著作の印税は掛け算で効いてくる。原稿料、印税といった本以外で、TVやネット別メディアからの収入を3本目の柱にすると所得が安定する。などなど、自分の台所事情を例に挙げて、お金のことについてあからさまに語っているのが面白い部分。 夏目漱石も新聞社からの所得があったから食えたのだ、など昔の文豪の財布を分析する部分も、野次馬としてはなかなか興味深い。 立花隆が事務所である「猫ビル」のローンを払えなくなった話は以前、週刊誌でも読んだ。日垣は、立花の著作の売れ具合から見て、彼の金銭的苦境の原因は、単に本人のずさんな金銭感覚のせいではないのかと分析する。「田中角栄」金権報道で有名になった立花隆が、自分のお金に関しては無頓着で蓄財や利殖と無縁の人であったというのも、ある意味頷ける話ではある。 通読して感じるのは、やはり売文稼業で生計を立てるのは大変だなということ。ノンフィクション系のライターは、何らかのタイアップが無い限り取材費は自分持ちで、1500万円の年収なら、取材費などの経費を考えると、サラリーマンの年収600万円くらいにしか相当しないと著者は述べる。しかし同時に、文筆に携わるプロの妙な「貧乏自慢」に惑わされず、若い書き手よ出でよとエールを送っているのもまた著者なのであった。 |