月曜が祝日。4日しかなかった割にはバタバタして長く感じた週。仕事のメールを、一日中、和文、英文取り混ぜて打ってると、さすがに少しばかり消耗する。日本との時差があるので、朝届いたメールはその日の内にフィードバックしておかないと、次の返答までまた時間がかかる。しかし、ポンポン連絡が上手く行くと、こっちが休んでる時に向こうからの進展が回答されてきている訳で、実に効率よいのだが。 ともあれようやく週末。 「「八つ墓村」は実在する」(蜂巣 敦/ミリオン出版)読了。横溝正史の「八つ墓村」は、猟奇大量殺人を扱った金田一耕助探偵シリーズの一編で映画化も何度かされた。この小説は、昭和13年に岡山県津山地方で実際に起こった、いわゆる「津山30人殺し」と呼ばれる大量殺人事件をモデルにしたものと言われている。この本は、その大量殺人事件が起こった地方を取材しながら、小説に化した「虚」と今も現地に残る「実」の境目を著者が放浪するノンフィクション。 「津山30人殺し」を引き起こしたのはまだ22歳の青年。犯行現場は、他の村から隔絶した山村。彼は犯行日の夕方に村の送電線を切断。真夜中になってから、頭に懐中電灯2本を縛りつけ、自転車用ランプを胸に下げ、日本刀と猟銃を持ち、真っ暗な村の中をまさしく鬼と化して走り回った。30人を殺すという殺戮の限りを尽くしてから、遺書を残し、最後は村を見下ろす峠に上って自殺。 前途有望な青年であったらしいが、結核を病んで徴兵検査に不合格。将来を絶望したことと、関係のあった村の複数の女性の態度が急変したことに激怒しての犯行とされている。興味深いのは、この村にはまだ当時、「夜這い」の習慣が残っていたということ。山で隔絶された閉鎖的な世界。その内部だけの放埓な開放された性、しかし当時は死に至る業病であった結核を青年が病んだ時、開放的で濃密な人間関係は、まるで彼だけを拒否するかのように冷たい壁と化したのではないか。横溝正史が描いた日本の村社会に残るおどろおどろしい記憶の残滓。小説の場面と実在の山村を重ね合わせながらの紀行ドキュメントとして、なかなか面白かった。 岡山の山村では、昭和になってもまだ「夜這い」の習慣が残っていたと読んで、昔、「夜這いの民俗学」(赤松 啓介)を読んだ時の驚きを思い出した。明治から昭和の初期にかけて、日本の伝統的社会は、性に対して実におおらかであったという、著者自身のフィールドワークに基づく検証。書いてあることが、ちょっと信じられないくらいの奇書。 Googleで「夜這い」を検索すると、この本の内容や感想があちこちで出てくる。興味あるなら検索をお勧めする。「遠野物語」で有名な民俗学の大家、柳田國男は、当時の日本社会に残存したこの牧歌的で放逸な性に関する話題を意図的に自らの研究から割愛した。自らの研究を学問として認めてもらうための手段であったのかもしれないが、古き日本の風俗・文化の貴重な記録を保存せず葬り去ってしまったとも言えるのであった。 |