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2006/08/23 日本を沈没させた男、小松左京の「SF魂」

「SF魂」(小松左京/新潮社)読了。日本SF界の巨人、小松左京が書き下ろした自伝。著者の個人史は、ほとんどそのまま日本SFの歴史とほぼ重なると称しても過言ではない。「日本沈没」映画化と、「日本沈没第二部」の出版に合わせたのだろうか。

そういえば、つい先日まで日経新聞の「私の履歴書」にも登場していたが、記述はかなり重複している。「私の履歴書」連載は大概、日本経済新聞社が単行本にしてると思ったが、同じような原稿を別の本にしてもよいのかね。まあ、現に新潮新書になってるのだから、別に構わないのだろうが。

駆け足でまとめた感のある半生記ではあるが、初期の中篇を、吉田健一が書評で誉めたとか、バチカンで日本語できる神父に会うと「神への長い道」を読んでいたとか、細かいエピソードになかなか面白いものあり。「地には平和を」、「果てしなき流れの果てに」、「ゴルディアスの結び目」などの名作が生まれた背景について語っている部分も興味深い。

「SFは文学として、ほとんどあらゆるものを表現の対象にしうる」ことに気づき、SFと言う文学形式の果てしない可能性に身震いするような思いで書き続け、果てはイベントや映画のプロデュースまで。あらゆるものを貪欲に吸収した知的好奇心と、計り知れない壮大な実行力は、科学から政治までを包含するスケールの大きな著作にすべて反映されている。

小松左京は私の母校の前身、神戸一中の大先輩にあたり、私が高校生の時校内に講演にも来た事がある。この自伝にも、「うかれ」と呼ばれて教師に叱られてばかりの少年時代が出てくる。「ある日、どうも調子が悪いなとずっと考えてたら、その日は教師に殴られてなかったんですなあ」などと漫談のごとく講堂で語ってたのを懐かしく思い出した。

最新刊、「日本沈没 第二部」は購入したもののまだ未読。主人公や背景、主要なエピソードは数名集まったブレイン・ストーミングで大枠を決定し、その構想に基づいて執筆だけを谷甲州が担当したのだという。執筆はしないもののプロデューサーとしての実力は健在。昭和6年生まれだからうちの親父よりも3歳年上。老いたりとは言えど、まだまだ元気に頑張ってもらいたいもんである

余談ながら、村上春樹も同じ高校の先輩にあたる。山の中腹にある校舎へと続く「地獄坂」やら、教室から見える波光きらめく海など、著作にも登場するのだそうである。そう、生まれ育った故郷はいつまでも懐かしい。リタイアしたら、東京にある一切合財を売り払って神戸に帰り、坂道を登った海の見えるところに住もう。最近、そんなことをよく夢想したりもするのであった。