「大学病院のウラは墓場〜医学部が患者を殺す」(久坂部 羊/幻冬社)読了。 題名だけ読むと誤解するが、大学病院が、こんなにひどいことをやっているという糾弾の書ではない。高度な医療の推進役であるべき大学病院が、いまや崩壊の危機にあることを説き、本来、使命感のある優秀な医者が集まったはずの組織が、なぜそれほど疲弊し、ボロボロになっているのかを、医師である著者が分析する本。メディアや政治、患者の常識と、医療の実態、医師の本音がいかに違うかの断絶を明らかにし、医師の本音に迫るというもの。 医療事故の報道がなされると、今までは、各メディアの解説をそのまま漠然と鵜飲みにして、医師側の責任が明らかであると考えていたが、この本で扱われる事例の解説を読むと、患者が亡くなれば単純に医師の責任という考えが、確かにいつでも正しいとは限らないことがよく分かる。 大阪府立の病院では、産婦人科の部長ポストが長く空席だったそうである。妊娠は病気ではないが、出産は意外に一般の印象ほど安全な行為ではない。日本全国平均では、200例に1例の割合で死産、新生児早期死亡が起こっている。そして産婦人科の医療訴訟率はどの科よりも多い。町の産婦人科は少しでも異常のある症例は次々大きな病院に送ってくる。結果として大病院での赤ん坊の死亡率はもっと高くなる。大病院の産婦人科責任者は、ロシアン・ルーレットを突きつけられているようなポストなのだという。 著者のスタンスがあまりにも医者寄りであるような気もするが、医療の実態と世間の常識との隔絶に光を当てるには、この角度は必須だったのかもしれない。大学医学部と大学病院、医局制度の崩壊や新臨床研修制度の実態など、興味深い事例が満載の本だった。 |