Amazon.co.jpで検索して、思いつくがままに発注した本がドッと届いた。まずは手軽な新書から、「解剖男」(遠藤 秀紀/講談社)を読了。 著者は、京都大学霊長類研究所教授にして獣医学博士。動物の遺体を解剖して、生物進化の系統や謎を探求し、解剖した遺体を博物標本として後世に伝えるという「遺体科学」を提唱する著者が、彼の学者としての活動やその理念を素人に分かりやすく、かつ興味深く解説した本。 新書の帯や本文にも著者の写真が掲載されているのだが、これが秋葉原系オタクを思い出させるような独特な風貌。要するに、学問でもパソコンでも鉄道でも何でもよいが、見るからに「何かに没頭する系」の人を思わせる。 本書の冒頭は、満員の通勤電車の中でアザラシの眼球を解剖する著者のエピソード。この人は本気で電車の中で解剖やってるのかと一瞬度肝を抜かれるが、実はこれは著者が、その蓄積した知識を総動員して自分の頭の中で解剖を再構築し、遺体に隠された真実を見極めようと思考の限りをつくす、いわゆる「脳内解剖」を行っている場面である。本書の題名や、わざと珍妙に映った自分の写真も含め、まあ著者独特の計算による一種の韜晦的ジョークだ。 動物園で亡くなった2トンもあるサイを引取り、解剖するエピソードも圧巻。この解剖は、サイの気管支の構造から、その進化の系統を明らかにし、種の分類にも示唆を与えた著者の論文として実際に結実している。動物の遺体解剖を専門にする著者は、どの動物園でどの動物がどこで死んだら、どのように運び出すかさえ、常に頭の中にあるのだという。 悪くいえばオタク系の香りがする話でもあるが、この本の全体を通じて伺えるのは、著者の、生命の不思議とそれを解明する「知」への純粋な憧憬、そして真摯な探求心にあふれた学問への情熱。駱駝のコブの不思議、牛の胃の奇妙な構造、腎臓の構造から推察できる、ゾウが昔は水生の動物だったのではないかという仮説などなど、次々に披露されるエピソードも興味深く、文章がまた上手でなかなか読ませる面白い本。 読み終えた後で、一緒に届いた他の本の中に同じ著者の「人体 失敗の進化史」を発見してちょっとびっくり。Amazon.co.jpの、科学関係カテゴリーの売れ行き順リストから、題名と解説で適当に何冊か発注したのだが、この人の本は最近、結構売れているようである。まあ、確かに読みやすく、興味深い「センス・オヴ・ワンダー」に満ちた本。 |