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2007/04/03 「日本一江戸前鮨がわかる本」

帰国前、銀座旭屋書店で、「日本一江戸前鮨がわかる本」(早川光/ぴあ)を購入。帰りの機内で読了。著者は、銀座に「水谷」として戻る前の「次郎よこはま店」を取材した、「江戸前ずしの悦楽」や、「きららの仕事」原作(これは実は読んだことない)、各種雑誌の寿司関係記事などでもおなじみ。

著者の長年の寿司食べ歩き経験から、江戸前寿司の魅力を語り、その楽しみ方と名店を紹介する本。「日本一わかる」というのはこれまた気宇壮大な話であるが、語り口も平易で、随所に著者の深い食べ歩き経験も伺える。気楽に読めてなかなか面白い。

「江戸前鮨の楽しみ方」として挙げてある事項に関しては、必ずしも全てに同意する訳ではないのだが、「お決まり」についての認識、常連になるための「ランチ」の使い方、「薀蓄は嫌われる」こと、「鮨職人を応援する楽しさ」など、全体として、実に真っ当なことが書いてあると思う。

素人グルメが店に点数つけるサイトをたまに覗くと、お昼に一度行って「お決まり」頼んだだけで、「評価できません」、「再訪はありません」などなど、修行を積んだ職人に対する敬意のヒトカケラもないようなお門違いコメントも多く、金払った客だから何言ってもいいという考えの裏に潜む一種の浅ましさ、傲岸不遜さに辟易する時がある。この本は、これから寿司屋巡りをしようとする人が、店を楽しむために知っておくべきことについて、ある種なかなか有益な示唆を与えている。もちろん、何やるのも自己責任であり、必ずしもこの本の通り行動する必要もないのではあるが。

「江戸前鮨の名店紹介」の部。行ったことのある店に関しては、細かい寿司種の評価に対し、ところどころ意見を保留したい部分あるものの、大筋の店の評価では著者に大きな異論なし。築地の「つかさ」は、私も大好きな店だから、著者の評価に全面的に同意。おそらく行ったことのない店についても、割とガイドとして信頼するに足るのではないかと考える次第。次回の帰国時には新店開拓に使ってみようか。この本以外にあちこち書いてる記述を総合して、なぜか「鶴八系」はお好きではないようにお見受けするが(いや本当はどうか知らないが)、これはこれで、寿司という食べ物に対する個々人の嗜好の奥深い多様性を感じさせて、まあ興味深い部分。

本の後半部分、寿司店の歴史に関する部分も、新たな知見はないものの簡潔にまとまって面白い。ただ、伝説の職人「藤本繁蔵」は、果たしてそこまで神格化されるべきものなのか、ここには少々疑問を感じた。

余談であるが、「きよ田」を職人として引き継いだ新津武昭は、色んな意味で実に興味深い「ひかない魚〜消えてしまった「きよ田」の鮨」という本において、店のオーナーの存在と自分の立場については注意深く言及を避け、自身の修行経験についても、誰にも教わらずひとりでにすべての技術を身につけたかのように語っている。このあたりの事情には、なんだか野次馬的な興味がわく。新津氏もご健在で復活されたようであるから、藤本繁蔵を扱うという評伝で、著者がこの辺りも扱ってくれると面白いんだが。ま、お前に関係なかろうと言われれば、まさしくその通りなのだが(笑)。