Amazon.comに発注した、「寿司おたく、ジバラ街道をゆく」読了。 本の前半部分は、「ジバラ街道 テクニック編」と副題があり、自腹で寿司を食べ歩いた著者の、寿司の食べ方に関しての薀蓄があれこれ。 「お茶にするかお酒飲むか」、「箸でつまむか手で掴むか」、「つまみとるか握りだけにするか」、「何から頼むか」などについては、雑誌の寿司特集でも何度も取り上げられる実にポピュラーな話題。 ただ、これらは要するに客の好き好きであって、どこにも正解なし。自分の思うようにすればよいと思う。もちろん、店には店の個性や方針もあろうから、その使い方に合った店を適時選ぶ必要はあるだろうが、自分の食べ方に固執して他者に押し付ける性質のものではない。その点では、内容に関して、ところどころ意見の違う部分はあるものの、ま、色んな考えがあるよなと興味深く読める範囲内。目くじらたてて反論するようなほどのこともない。 ただ、面白いなと思ったのは、記載内容を通じて、「親方に気に入られたい」、「通だと思われたい」というトーンがひしひしと感じられるところ。全ての項目を通じてこの観点から、寿司屋における客としての「戦略(?)」があれこれ書きつらねてある。 個人的には、なぜそんなに気に入られたいか、なぜ通だと思われたいか、という心性に実に興味を感じる。そして、もしも、これらの「戦略」を真に受けて本気で実行する人がいたら、(実際、雑誌や本の特集に書いてあることを受け売りでそのままやってるなという人は時折見かけるのだが)ちょっと滑稽で、影で笑われるのではないかなと老婆心ながら余計な心配がわく。「銚子は「半分」、ビールは「小瓶」」やら、「ちょっと炙ってくれる」など、実行しても意味ないと思うのだが。 代表的白身の味の判別方法にしても、まるで受験勉強の暗記物のように分類までしないと分からんもんかねという素朴な疑問あり。もっとも、著者が「寿司初心者」に対して講釈するというのが本のコンセプトであり、親切心で一種の「コーチング」として書いているとも受け取れる。しかし、余計な講釈は時として諸刃の剣となる。信じ込んでその通りやると、逆に失敗する危険性が潜んでいるようにも思うのであった。まあ、何によらず物事は、結局のところ自分で感じて、自分で考えるしかない。 後半部分は著者が選んだ名店紹介。「東京編」の店の選択は、ほぼ評価の定まった有名で無難な店ばかり。驚きはないというか、新店開拓のガイドとしてはやや物足りない。ただひとつ例外は、浅草の「久いち」。最近急速にメディアに露出しているが、他の掲載店とのバランスからすると、この一店だけなんとも奇異に感じられるのは事実。まあ、店と客の相性の問題だが、著者もよほど肩入れしているものとみえる。 東京以外の地方店の案内が充実しているのもひとつの特徴。日本全国津々浦々に、寿司屋も色々あるもんだなと感心すると共に、ある種の「寿司紀行」として読むと、それぞれの店に特色があって面白い。、都内の江戸前寿司の店とは明らかに違った基準(酒飲んで長居できる)で評価されているところも、一種の旅情重視の寿司紀行文と考えればある意味納得。 店評価の本ではなく、著者のお勧め寿司店の紹介であるから、どの店も誉めてあるのは当然といえば当然か。まあ、悪口ばかりの本に比べれば読後感はよろしいように思われる。それにしても、早く日本に帰って寿司屋行きたいものである。 |