「フランスよ、どこへ行く」(山口昌子/産経新聞出版)読了。著者は、産経新聞パリ支局長。「グルメやモードという軟派のフランスとは異なる共和国フランスの本質と魅力の一端」を紹介すると帯にある。新聞の連載コラムを本にしたものであるから、1回の分量が短く、やや物足りない感もあるのだが、我々がいかにフランスという国を知らないかを思い知らされる事実が満載で、実に面白い。 実は好戦的な歌詞である国歌「ラ・マルセイエーズ」を愛する国民。サッカーの国際試合でも、国歌にブーイングが出ると国を侮辱されたと席を立つ大統領。しかし、市民革命の本家本元にして、イラク戦争にも反対したフランスは、決して右寄りの国ではないのである。 小学生まで原則として保護者が送り迎えしなければならない学校制度。バーゲンセールの回数や日曜営業まで制限する法律。結婚はしないが子供は生むカップルが増えて、今やヨーロッパ最高にまで達しようとしている合計特殊出生率などの世相も実に違うもんだなと面白い。ファッションや料理は別として、確かにフランスについては何も知らなかったなという、数々の新鮮な驚きを感じるエッセイ。 ひとつ思い出したのは、昔、読んだ、「フランス人 この奇妙な人たち」という本。これは、フランスに仕事で移住したアメリカ人の女性が、フランスについて、どれほどアメリカと違うかを異邦人の目から語ったエッセイだが、日本人ならこのアメリカ人著者が語るフランスへの違和感のほうに共感を覚えるに違いない。 個性を伸ばすより、社会に生きる論理を叩き込もうとする厳しい教育と、理数系を重視した、厳格な詰め込み主義。エコール・ノルマルやポリテクニークを卒業すると、一生食いっぱぐれがないほどの極端な学歴偏重社会は、まるで中国の科挙が現代に甦ったかのよう。自由の尊重と表裏一体となった徹底した個人主義。利益を上げるよりも論理的、技術的にすぐれたものを作ろうとする企業風土。階層間の移動性に欠けた厳然たる格差社会と、その頂点に君臨する高等専門学校で徹底的に数学と論理を叩き込まれた社会の支配層エリート達。 ややひねくれて考えると、このあたりの特徴の多くは、実はずっと昔、多分戦争前の日本にも似ている。しかし現在の我々日本人は、グルメやモード(そして一部の美術)以外はフランスのことを何も知らない。日本の文化がいかにアングロサクソン、というよりアメリカに極端な影響をうけているか、日本の西欧文化吸収史を再度勉強したくなるような興味深い本。 |