MADE IN JAPAN! 過去ログ

MIJ Archivesへ戻る。
MADE IN JAPAN MAINに戻る

1998/02/16 漱石はタイムマシーン

まだ、さほど忙しい訳でもない。7時半に会社を出る。会社近くの本屋で、長い通勤の無聊をなぐさめるために、懐かしい文庫本を購入。霞ヶ関に歩く途中で、新宿経由で、座って本を読んで帰るかと気が変る。新宿に着くと、8時半のロマンスカーがまだ空席があったので、じゃあ、指定席を買って、待ち時間でヨドバシカメラでもひやかすかと、また気が変る。

西口ヨドバシカメラの横手には、なんだか小さな入り口の、オヤジのたむろする立ち飲み屋があった。こういうオヤジのたむろする立ち飲みってのは、イタリアで言えばバール、イギリスで言えばパブだよなあ。なんて考えてるうちに、つい、フラフラと入ってしまった。中は一人で飲んでる50過ぎのオヤヂと、学生風のグループで一杯だ。30代のオヤヂはいったいどこにいるのか(笑)。

燗酒をコップで一杯。やはり立ち飲みってのは、なみなみと注いだ酒が下の皿にこぼれたのを、ちょっと飲んだ後、更にコップに注ぎ足すのが正式な流儀だよなあ。しかし、立ち飲みでコップ酒400円ってのはボリすぎだ。ヨドバシカメラ横の立ち飲み屋よ。

ロマンスカーに乗って、さきほど買った文庫本を。これは、中学生の時に読書感想文を書いて以来に読み返す、漱石の「こころ」。私も速読のほうだが、さすがに40分の乗車時間では、「先生」が遺書を、父親の危篤で郷里に帰った主人公に送ってきたところまでしか読めない。

しかし、中学生の時に感想文に引用したフレーズが、なぜか、長い長い時を経て、やはり私の心をヒットしたのだった。遠い昔の私が、何に心打たれたのか、今でも手に取るように思い出せるような気がする。古今の名作と言うのは、とんだタイムマシーンだなあ。いちおうそれを引用しておこう。

「私は今より淋しい未来の私を我慢する代りに、寂しい今の私を我慢したいのです。自由と独立と己(おのれ)に充ちた現代に生まれた我々は、その犠牲としてみんなこの淋しみを味わわなくてはならないでしょう」

漱石の印象に残るフレーズは、なぜか、ちょっと英語から翻訳したかのような、そこはかとない固い香りが持ち味で、そこがいいんだなあ。今にして思えば。