昨日読んでたのは、文庫本で買った、ジム・ギャリソンの「JFK」。オリバー・ストーン監督の同名映画の原作となった本で、ニューオーリンズの地方検事だったジム・ギャリソンが、ケネディ暗殺のオズワルド単独犯説に疑問を抱き、調査チームを使って疑惑に迫っていった実録。
ケネディが撃たれたのは、1963年の11月22日だから、もう35年も前なんだ。映画ではケビン・コスナーがジム・ギャリソン役をやっていたが、ジム・ギャリソン本人も疑惑究明のウォーレン委員長役で出演してたっけ。本を読むと、映画の「JFK」は、かなり忠実にこの原作を下敷きにしている事が分かる。
暗殺の黒幕としては、マフィア説、CIA説、キューバ人スパイ説、軍産複合体説などさまざまな説が入り乱れているが、ジム・ギャリソンは、この暗殺は、ベトナム戦争を継続させようとしていた軍産複合体勢力が、ベトナム撤兵を考えていたケネディを排除した、いわばクーデターで、その主役を務めたのがCIAだと考えていたようだ。
オリバー・ストーン監督はインタビューで、「フランスでは大部分の人がJFK暗殺には何らかの陰謀(conspiracy)が絡んでいると考えているのに、当のアメリカ人達は、オズワルドの単独犯行説を信じきっている。アメリカ人はナイーブすぎる」と述べているが、確かにアメリカの調査では、オズワルド単独犯説には疑問を抱く人が過半数を占めるものの、事件の再調査を望んでいる層は半数にも満たないらしい。不思議な事に、あれほど疑惑の多い事件に対しても、アメリカのメディアは一環して陰謀説を否定する立場を取っている。
もっとも、ケネディ暗殺の真相を追求する市民の会(Citizens for Truth about the Kennedy Assassination=CTKA)なんてのもあって、事件の真相究明を求めて活動を続けているらしい。調べて見ると、最近ではWebページまで開いて、会報も定期的に出しているようだ。
ところでこの暗殺の瞬間を撮影した有名な映像に、「ザプルーダー・フィルム」というのがある。これは、ザプルーダーと言うオッチャンが、何も知らずに、たまたま暗殺直前のパレードを8ミリカメラで撮影していたフィルム。(映画「JFK」でも、ザプルーダ役の俳優がカメラを回しているシーンがあったね)
事件後、タイム・ライフマガジン社(現在はタイム・ワーナー社)がこのフィルムを、当時の金で15万ドルと言う大金で購入したのだが、不思議な事に5年以上も倉庫に入れられたままだった。最近アメリカではこのフィルムの完全版ビデオが発売されたらしいが、タイム・ワーナー社は、最近になってなぜか無償でザプルーダーの遺族にプリントフィルムの権利を返したらしい。いまだに何やかやと不思議が多い。
ザプルーダーフィルムは、「JFK」の中にも切れ切れになって挿入されているが、私自身はずっと前に何かの報道映画で本物を見た事がある。
ただし、このフィルムには、最初の銃弾は映っていない。第1弾と思われる銃弾が命中したのは、ちょうどパレードカーが交通標識の陰に入った時。影からでてきた時にはケネディはすでにガックリと頭を胸に落しており、なんらかの異常があった事がはっきりとわかる。その直後に、致命傷になったと思われる銃弾が炸裂する。この有名な着弾シーンでは、ケネディの右こめかみあたりに銃弾が当たり、頭が後部にはじかれて、後頭部から骨や脳漿がパレードカー後部に飛び散るのがはっきり分かる。実に衝撃的なシーンだ。
オズワルドが銃を撃ったとされているテキサス教科書ビルはケネディの右後方だったから、これは明らかに、車の右前方のグラッシー・ノールと呼ばれる丘にもうひとりの狙撃者がおり、そこから致命傷となった銃弾が発射されたと言う決定的な証拠のひとつだ。
ところで、このフィルムを見ると、ケネディが致命傷を受けた直後に、横に座っていたジャクリーンは席から立ち上がって自動車後部のほうに移動しようとしている。これは、自動車から逃げようとしていた、と解説する人が多いが、最初にこのフィルムを見た時の私の感想は違う。
あれは、自動車後部に飛び散った夫の脳や骨をかきあつめようとしてたように見えた。「そんな事するか」と言う声もあるだろうが、人間は、パニックだからこそ考えられないような事をするもんで、逃げようと考えが働く前に、飛び散った脳漿や骨をとっさにかき集めるたと見るほうが実にリアルな感じがするけどなあ。
もっとも、オリバー・ストーンの解釈は違うようで、「JFK」に挿入された射撃シーンでは、ジャクリーン役の女優は車から降りようとしているようにしか見えない。しかし、それは実際のザプルーダーフィルムの印象とは違うんだなあ。どうも。
で、ちょっと興が乗ってWebで色々検索していると、JFK Murder Solvedというサイトがあった。これは1994年にアメリカでTV放映された番組をページにしたものだが、なんと、グラッシー・ノールから自分がケネディを撃っって致命傷を与えた、という男のインタビューが掲載されている。本当の真犯人だったら、すぐに消されているような気がするし、どうも真偽は疑わしいが、この男は、射撃直後の望遠スコープから見たジャクリーンの様子をこんな風に描写している。
At that point, through the scope, I witnessed everything, matter and skull bring blown out to the back on the limousine and everyone on televison watching saw Jackie Kennedy crawl out there to get it.
その瞬間に俺はスコープ越しにすべてを見た。リムジンの後部に吹き飛んだ組織と頭蓋骨。そしてTVで全員が見たように、それを腹ばいになってかき集めようとするジャクリーン・ケネディ。
ほら、やっぱりそういう風に見えたんだよなあ。もっとも、当時このシーンはTVなんかでは放映されてないはずだから、どうもこの証言は、後で公開されたザプルーダーフィルムとTV放映を混同しているようで、信憑性に欠けるような気もするけど。
いずれにせよ、謎だらけの事件だが、重要な証拠が国家公文書保管所からも次々と紛失しているとも伝えられており、陰謀が存在したとしても、もはや真実が明らかになることはないだろう。ギャリソンは、アメリカのメディアがケネディ暗殺の疑惑に触れたがらない事について、こんな風に述べている。
「アメリカが世界でもっとも素晴らしい国であることを、長い間世界に宣伝してきたマスコミにしてみれば、政府の政策を変更させるために、国の指導者がそんな残酷な方法で排除される事もある得る事を認めたくはないだろう」
もしも軍産複合体によるクーデター説が本当だったとしたら、アメリカを動かす、とてつもない闇の力に我々はただ嘆息するしかない。