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1999/11/06 「日出ずる国の奴隷野球」

本日はのんびり起床。週刊文春で、ロバート・ホワイティングが書いた、団野村の記事を読む。ご存知、野村サッチーの最初の米国人の夫との間の子供だが、最近では、野茂や伊良部の大リーグ入りのエージェントとして有名だ。

日本の野球界では、団野村は、何も知らない選手に悪い考えを吹き込んで移籍をそそのかし、自分のコミッションを分捕ることだけを考えてるとんでもない極悪人、という評価が定着しているが、実際にこの記事で団野村の言ってることを虚心に聞くと、実にまっとうな主張なのである。

野茂が日本で複数年契約を主張したとき、近鉄の球団代表はこういった。「複数年契約は、うちの財政が苦しいから無理だ」。

団野村はこう反論する。「客集めは、球団経営しているあなたがたの仕事であって、球場で100%の力を振り絞って戦っている選手の責任ではありません。そのしわ寄せを選手に押し付けないでください。儲からないのなら、なぜ球団を売却しないのですか」

球団代表は激怒するのだが、考えて見れば、これはごく普通の主張である。

サラリーマンなら、給料が安ければ、転職する自由があるが、日本のプロ野球では、球団の選手との間に、奴隷的ともいえる契約が存在して、球団の許可無しには自由にチームを移籍することすらできない。ドラフトで人気球団に入りたい選手が多いのは、生涯年収を考えれば、当然の考えである。

日本のプロ野球協約では、任意引退選手は、以前の球団の了承がないと「日本の球団とは」契約できないことになっていた。しかし、規定には大リーグについての定めが無かったため、野茂は、あえて任意引退の書類にサインした後で大リーグとの交渉を開始した。それが団野村のアクラツな指しがねだというので、野村は大変な極悪人扱いになって、規定も改定される騒ぎになったのだが、そもそも、引退後の去就まで元の球団に支配権があるという奴隷的な契約そのものがおかしいのであって、別に野茂が違法なことをやったわけではない。

野茂がそのまま大リーグで鳴かず飛ばずであったなら、それみたことかといったはずのプロ野球界やスポーツメディアも、彼が大リーグで活躍しだすと、手のひらを返したような対応である。

少し前までは、「儲かってないから年俸は上げられない、しかし勝手に大リーグに行くとか、移籍志願することは許さん」などという、日本の球団首脳の考えは実に当たり前のように語られていたはずだ。

待遇や評価に不満を持って移籍志願や大リーグ行きを口にすると、「育ててやった恩を忘れやがって」、「飼い犬に手を噛まれた」と反応する。こういうメンタリティが支配するのは、実に前近代的な徒弟制度のなごりであって、ま、親方と丁稚の関係みたいなもんだなあ。実に近代化が遅れている。というより、野球というスポーツがプロ化されたのは戦後のことなのだから、そういう経営に親方丁稚の奴隷的な考えを導入したこと自体が、日本の実に遅れた社会構造を反映しているような気がする。

ホワイティングの本は、「日出ずる国の奴隷野球」 というのだそうだ。