用事があったので、火曜はお休みして一泊で神戸まで。元町大丸近く、うどん屋「力餅」が別の店に変わってたのでびっくり。子供の頃から同じ場所で営業しており、なんだかずっと同じ場所に存在するのが当然のような気がしていたのだったが。世の中はやはり生々流転、祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。 生まれ育った故郷は、たとえ街並みが変わってもやはり懐かしい。六甲山を間近に見て、道行く人の関西弁聞くとなんだかホッとする。地下鉄のエスカレータ、立つ位置が東京と逆なのを見て、ああ、関西に戻ってきたなという気分。 これは結構有名な話で、なぜ関西と関東で逆なのかについては諸説あるらしい。しかし、以前、地下鉄三宮駅のエスカレータで東京から来たと思しい友人に解説している関西弁の兄ちゃんの説明が面白く、神戸に戻るたびに思い出す。 「あんな、こっちではエスカレータの右側に立って左を空ける。東京と逆やろ? なんでか知ってる? 片側に並ぶのは、そもそも大阪万博の時に外国を見本に定着させたマナーなんや。日本では関西が一番先に取り入れたことになるわな。その時に決まったのが、左側空ける方式。これが国際標準。ほんでな、東京が後から真似した時に、右と左と間違えよってん、なんでか知らんけど。せやから、関西の、右に並ぶちうのがもともと正しいんヤ。東京モンは、間違えてるの知らんと、ずっと左に立ってるがな。」などという「関西中華思想」色の強い話であったが、ホンマかいな。真偽は別として語りの間が漫才のように絶妙で実におもろかった。 しかし、考えるに、諸外国では本当に右側に立ってるのか。アメリカの事を思い出そうとしてるのだが、シリコンバレーもシカゴ北西郊外も、あんまりエスカレータあるような場所じゃなかったから、サッパリ思いだせないのであった。 ロンドンの地下鉄エスカレータでは、東京同様左側に人が立ってたような幽かな記憶があるのだが、これまた記憶はハッキリしない。ひょっとすると、自動車の車線のように、アメリカと欧州では反対になってるのか。ご存知の方おられたら諸国事情をご教示いただきたいものである。 |
24日の日記で触れた、「エスカレータのどちらに立つ」問題に関しては、特にロンドンについて、現在住の方、元在住の方含めて10通近くメールを頂いた。全員、見事に「右に立って左を空ける」との回答で一致。そうすると私の記憶は間違いで、やはり何かと交錯してるのだな。ロンドンは関西と同じ、東京と反対。そしてカナダから2通。「あまり気にならないが、どちらかというと右」という回答と「右に立って左空ける」というもの。ということは、基本的にロンドン方式と同一。英連邦のつながりですかな。関西方式は外国に学んだという説は意外に本当かもしれない。なぜ東京が逆かという疑問は残るわけだが。 しかし、考えてみると、この「エスカレータ問題」は、東京、大阪、ロンドンのように地下鉄網が発達し、乗客が多く乗り降りする都市でしかありえない想定だ。外国でもダウンタウンでなく郊外の街だと、エスカレータはショッピング・モールにある程度で、どちら側に寄って立つような確固たる習慣は醸成されてないに違いない。アフガニスタンや象牙海岸でも勿論ルールは無いだろう。アメリカであっても郊外型の町では気にならないはずだ。私自身、なんでアメリカ時代の記憶が無いのかというと、住んでいたSunnyvaleもArlington Heightsも地下鉄のエスカレータなんかなかったからだな、やはり。まあ、そういう面では、あまり世界に普遍的な問題ではないというところに落ち着くのか。 東京で左に立つことについては、あるメールで「昔、武士は刀が当たらないように相手の左側を歩いた」という興味深い説を教えていただいた。これが東京の「左立ち」に投影されているのなら、関西は武家社会ではなく商人社会であったから何か別のルールが働いているということになるのかもしれない。もっとも広い道では人間の流れは自然に左側通行になるのは関東関西共通のような気もするので、その辺がやや納得ゆきかねるところでもあるのだが。う〜む。 |
日曜夜は、「しみづ」。「つかさ」でも時折お会いするI氏がご夫妻で。奥様は来年イギリスに留学されるとのことで、ロンドンのエスカレータ話など。前回更新した後の土曜日に、昔からエスカレータ立ち位置問題に興味があったという某氏から、「パリもミラノもニューヨークもボストンもロンドンもジュネーブも左側を空けます。なので関西方式が世界標準といえますね」とのメールを頂いたのであった。ジュネーブ以外の都市は、私も訪問したことがあるけれど、ちっとも覚えてないというのは、やはり普段からアンテナ高くしてないと何も見えないということなんだなあ。つくづく感じ入ったことであった。 そんな話をしてると、カウンタの中からお弟子さんのダイスケ君が、「平塚はエスカレータで右に立ったような気がしますけどねえ」と。関東なのにホンマかいな(笑)。まあ、しかし、なぜ東京だけ世界と違うかは不思議なことである。平塚が違ったら更に不思議。東西の境目はどの辺かも興味深い。名古屋は東京方式かねえ。 ツマミでは、タイ、昆布〆、タコ、赤貝、スミイカゲソ、サヨリ、ウニなど実に結構。握りに移行してまずマグロ。かなり熟成が進み、色もくすみかけた印象なのだが、ネットリとした旨みが濃厚で、煮切り、酢飯と実によく合う。3貫連続で。コハダ、アナゴ、カンピョウ巻とどれも美味い。タクシー帰宅。 |
先日からシリーズでお送りした「エスカレータ立ち位置問題」、ほぼ結論が出た(笑)。名古屋在住の方から「名古屋では左に立ち右を空ける」とのご連絡。ありがとうございます。少なくとも名古屋までは関東の影響が及んでいると判明。 そして、この問題を取り上げたTV番組があって、「岐阜県の大垣駅と垂井駅の間」が立つ位置が左から右に変わる境界線だったと放送していた記憶ありという方からもご連絡が。そこまでもう判明していたとは。そう、日曜夜に「しみづ」で雑談した時も、だいたい何によらず、関が原辺りが地政学的にも東西の境界ですなと語ってたのだったが、実に近い。 新幹線で新神戸から東に向かうと、米原辺りまでは乗ってくる客が関西系という気がする。しかし、岐阜羽島からちょっと微妙になり、名古屋から乗って来る客は、ああ、やはり関西とは違うなという感じがするのである。東京人が東から西に向かっても、関が原越えて何が変わったかは、多分あまり感じ取れないものと思うのだが。いやあ、面白い。 |
エスカレータ問題については、昨日、軽々しく「結論」などと書いたら更に追加情報が到着。やはり何事も拙速に結論出してはいけませんな。仙台では関西方式だという話や、上りと下りでも違うという話、さらに横浜のヨドバシカメラでは関西方式(観察が緻密だ)という話など。 興味深かったのが、この問題についてとりあげた特集サイトがあるとでんこ@ろんどんさんから教えていただいたこと。 新大阪から東京まで新幹線の駅ごとにエスカレータの立ち位置をチェックして写真に収めたルポルタージュの労作。これを見るに、東京と大阪の間の境界線は、やはり岐阜羽島/関が原辺りにあるのではないかと推測される。しかし仙台が関西方式であるという情報についてはどう理解すべきか。 「全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路」という本がある。関東では「バカ」、関西では「アホ」を使うが、その分布を調べると、京都を中心に、遠いほうが「バカ」、一番近い場所に「アホ」、その中間に「タワケ」文化圏が同心円状に広がっているということを調査した本。すなわち京都での言葉の流行が、歴史を追って同心円状に伝播しているのだ。この本は実に面白かった。 で、この「方言周圏論」を「エスカレータ立ち位置問題」に応用するなら、まず関西方式が全国に普遍的なものとなったが、その後、関東で左に立つ習慣が生まれた。それが周辺にだんだんと伝播していったのだが、まだ仙台や関西にまで届いてないという理屈になるのでは。 岐阜羽島は東京から390キロ。仙台は東京から350キロとほぼ等しい距離にあり、東京から新しい習慣が同心円状に広がったとして、東西の習慣が変わる境界線がそのあたりと見て無理がない。この仮説が正しければ仙台以北も関西と同じくエスカレータでは右側に立つのでは。疑問はいくらでもわいてくる面白い話題だ。そのうち、東北新幹線で北に向かって実地調査でもしてみたいもんである。 |