MADE IN JAPAN! 過去ログ

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1997/07/17 サラリーマンはサラリーパーソン

昨日の夜、そろそろ寝るかと思った時、たまたまHBOでケビン・コスナーの「Tin Cup」をやっていた。前に出張中の飛行機の中でも見た事があるんだけど、ついつい見てしまった。結末そのものは、ちょっとだけヒネリが効いてるが、ストーリーとしては安直かな。映画の制約でしょうがない部分もあるが、250ヤード川越えのロングホール第2打だけが、ゴルフの醍醐味ではないのになあ。脚本に、ゴルフの奥深さや戦略をもっと盛り込めれば、ゴルフ好きにも楽しめる映画になったろうに。ゴルフショットそのものの美しさも画面に捉え切れていないような気がする。えっ、そんな意図で作ったんじゃないの?<まあ、そうかもね。

な訳で、寝るのが遅れた。素晴らしく美しい花火を見ながら、海辺に打ち寄せられたゴミを拾っている不可解な夢を見つつ、目をさますと、8時半。会社の始業時間ぴったり。目覚しをセットした覚えはあるから、2度寝したのか。まあ、しょうがないので、そそくさと支度をして会社に出かける。

うちの会社に限らず、アメリカでは、だいたいExempt とNon-Exemptに従業員が別れているのが普通で、駐在員と、アメリカ人のアシスタント・マネジャー以上は、Exempt employeeと呼ばれて、残業が全くつかないかわりに、ある程度自分の就業時間を自分でマネージできる裁量が認められている。例えば、会社は、Exempt employeeを遅刻が多いとの理由で解雇する事はできない。だからまあ、遅れて来ても、ちゃんと勤務時間分働けばいい、と解釈可能なのである。<何を長々と言い訳しとるんじゃ!

今度、新規に従業員を雇用する予定もあり、法務マニュアルで採用関係の事を再度チェック。ごくおおざっぱに言うと、アメリカでは、いわゆるタイトルセブンと呼ばれる公民権法の第7章と、雇用機会均等法で、雇用者が、人種・宗教・性別・肌の色・出身国を理由に採用、昇進などの差別をする事が禁止されている。年齢については別の法律で、70才に達するまでは高齢のみを理由に採用拒否したりできない訳だ。要するに、採用の面接の時、上記に関する質問はタブーになっている。

もちろんアメリカは州単位でも法律が違う。もっと差別の幅を広げているところもあり、一度うちの会社が、ウィスコンシン州政府の機関と売買契約を結ぶ際にもめた。同州では、州政府機関とある一定金額以上の契約を行うすべての企業に、Sexual orientation(性的志向)による差別をも禁止する社内規定を作成する事を要求していたからだ。

Sexual orientationとは、いわばホモセクシュアルのような性的な好みを指すが、これを理由にする雇用差別は、連邦法では今のところ禁止されていない。(軍隊にホモが入れない事で以前もめてたなあ)当然うちの会社の内規も、そんな差別禁止条項まで盛りこんでいない。ちょっと契約時に問題になった。

ウィスコンシンなんて、中西部の保守的な田舎州に思えるが、変なところで進歩的だ。カリフォルニアでも、確か性的志向までは雇用差別に入ってなかった。ただし性的志向と言うのも、人間の根源的欲望と関係あるし、色々な変態さんまで含めなければならないとしたら、線引きには色々と議論百出。サドはどうか、女装は、あるいはゴムフェチはどうだとか。人間って言うのも業が深い。まあもっとも、こんな事を採用の面接で聞く愚か者はいくらなんでもいないはず。日本でこういう事で差別されてる人はウィスコンシンに来れ。はは

ただし、こういう法律を悪用して、就職面接でこっちが聞いてないのに、今、妊娠中だとか、今度結婚するとか自分から話し出し、不採用になると差別された〜、と訴えるのもいる。まあこういう、Dirty trickを使う人間はごく少ないし、履歴書の段階で見破るよう努力するしかない。何の法律でも、悪用される事があると言う事だろうなあ。しかし、副作用はあるにせよ、こういう差別を放置せずに法律を作ってでも強制的に改善しようとしているところが、アメリカの素晴らしい点でもあるだろう。

ものの本には、採用広告を出す時に、性別を規定しているから使ってはいけない言葉が例示してある。いわゆる、Politically Correct(日本語にするのは難しいが、日本の言葉狩りのような、nominal=名目的、な正義として自嘲的に使われる場合が多いような気がする。Black を African Americanと呼びかえるのもそのひとつ)の一種。

例えば、駄目なのは、Salesman、Camera man、Policeman、Stewardessなど。それぞれ、Salesperson、Camera Technician、Police officer、Flight attendant、と替わり用語を使うべきだとある。日常普通に使う、ホテルのドアマンとかバスボーイも駄目らしい。昔よく聞いた、スポークスマン(報道官)も今では、スポークスパーソンになってしまった。一応、これも”Man”に人間一般を代表させる、辞書にも載っている用法なのだが、まあ、社会の流れか。

イギリスでも同様の規制があり、性別や年齢を明示して採用広告を打つ事は違法らしい。同居してくれる女性のハウス・キーパーが欲しかったおばあさんが、ちょっと知恵を働かして、「ハウスキーパー募集。女性と同居できる人。ブラウス、スカート、ストッキングの衣服支給」、と新聞広告を打ったところ、女装趣味のある男性が押しかけてきて、うちの国の法律はおかしい、とおばあさんはカンカンだった何かの本で読んだ。

日本語には、もともと性別を意識した単語が少ないし、採用の時に、性別による差別が暗黙のうちに認められているから(いや、もちろんそれを肯定している訳ではないのだが)、あまり職種、職名の言い替えまでは普遍的ではないかもしれない。

でも、例えば銀行マンとか商社マンなんてのも厳密に言うとまずい。営業マンや経理マンなんてのもある。和製英語と言うか、すでにして日本語だが、もともとは英語由来だし、アメリカではそういう場合には、「マン」はもう使わない、となると、そのうち言い替えが始まるかもしれない。同じ仕事をしている女性だっているのだから。サラリーマンは完全な日本英語で、英護圏ではよほどの日本通にしか通じないが、やはり同じ事か。(うちの会社のMISのマネジャーは日本に遊びに行った事もあって、事あるごとに、日本では会社に勤めている人間の事を、Salary manと言うんだと、あちこちのアメリカ人に解説しては面白がっている。やはりおもろい響きなんだろうか)