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1997/07/18 アメリカ人の履歴書を読む

昨日は、寝酒にスコッチを少々飲んだが、快適な目覚めで会社に。外はやっぱり蒸し暑い。午後の会議中に外を見ていると、急に空が真っ暗になり、雨と一緒にあちこちで雷が落ちだした。そう言えば朝のニュースで午後にはサンダーストームが来るって言ってたな。ここらへんは、海も山もないので、天気予報が実によく当たる。暑くなると言えばそうなるし、雪が降るといえばきちんと降ってくる。大陸性の気候だから、衛星画像を見ればだいたい西から大気が動いてくるので予想しやすいのか。

仕事では、シカゴでもトラブルが絶えないのだが、今度は西海岸のほうでも色々と問題が出てきた。かなわんなあ。アメリカ人同士で話していれば日常業務ベースで済む事でも、余計な日本人のゼネラル・マネジャーが絡んでくると、また、自分では問題が何かも分からないのに、日本流にとにかくこっちに来いの一点張り。馬鹿らしいけど来週後半に西海岸に出張するはめになりそうだ。簡単に西海岸と言っても、ここから片道3000キロだから大変なんだ、これが。

昨日書いた、サラリーマンは日本独特の表現なんて事は、日本でも誰でも知っている常識だが、考えてみるとアメリカで会社勤めの人を総称する言い方なんてないような気がする。日本だと、女性の会社勤めはOLと総称するだろうが、これもアメリカ人が聞くときっと笑うだろう。

一般にアメリカだと、会社勤めでも、自分の職業を言う時は、セールス・アシスタントだとか、ヒューマン・リソース・コーディネーターだとか、リーガル・セクレタリーだとかの職名を名乗るのが一般的か。給料についても、こういった職名と経験年数で色々な統計があるので、新規採用の給与決定の時にも参考になる。事務一般と言うのはどういうか知らないが、まあオフィス・クラークか。ただし、こういう漠然とした職名は、なんの権限もない下働きを意味するから、自分で名乗る人は少ないかもしれない。

以前、西海岸にいた時、部下のアカウンティング・クラークが、Job Hoppingでやめてしまって、求人の広告を、地元新聞のサンノゼ・マーキュリー紙に出した事がある。アカウンティング・クラークと言うのは、経理関係のまあ下っ端の仕事なんだが、優秀なら引き上げてもかまわないと考えたので、一応、大学で会計専攻した事を条件として、少しばかりコンピュータのスキルもあればなおよし、と言うような内容にした。

ところが、掲載されたとたんに、レジュメ(履歴書)が来るわ来るわ、数日で200通近く送られてきた。こっちも全部読めないので、アシスタント・マネジャーに最初のスクリーニングをしてもらったところ、3つの山に分けて持ってきた。ひとつめは彼女が適切な候補者と思ったもので、全体の10%くらいか。それより小さなふたつめは、Over qualifyだと言う。最後の大部分が、Under qualifyで、一応全部置いてゆくと言うので私のデスクに積み上げた。

Over qualifyと彼女が言ったのは、要するに資格ありすぎというか、会計の担当の給料ではどうせ雇えないような経歴の人物。ぱらぱら見てゆくと、弁護士の資格を持ってたり、MBAを取ってどこぞの会社で10年もアシスタント・マネジャーをやってるとか、なかにはコンピュータ・サイエンスのマスターを持ってコンピュータメーカーに勤めてるとか、ともかく、こっちが気軽に担当として使えないような経歴の候補者だ。会計の支払い担当を募集してるのに、何を考えてるのかと思うが、こっちの人は現在の職があっても、万一のチャンスを逃さないように、いつもあちこちの会社に履歴書を送り付けているのが普通だから、募集は会計の担当者でも、ひょっとして他のポジションの声がかかるかもしれないとせっせと履歴書を送り付けてくるらしい。この山は悪いけど無視。

まあ、アメリカの弁護士や、会計士なんてのも、日本のように資格を取ったからといって、それだけで食っていけるほどの資格ではない。うちのシカゴの会計マネジャーもサンフランのアシスタント・マネジャーも会計士だし、この間は、会計の担当の女性も会計士の試験に受かって給料のいいところへ転職して行った。まあ、就職には有利だろうけど。サンフランシスコ・49ersのQB、スティーブ・ヤングも弁護士の資格を持っていて、たしか昨シーズンまで、オフェンスラインのセンターも弁護士だった。日本で弁護士の資格を持ったプロスポーツ選手なんて考えられないのだが。

しかし、面白かったのは、Under Qualifyの山で、高校卒業で、あっちこっちのレストランのウエイターしかした事ない奴とか、スーパーの店員とか、軍隊で通信部隊にいて、除隊して倉庫番をしてるとか、自動車のセールスの経験のみとか、全然会計のかの字も知らないのが山のように履歴書を送り付けてきている。まあ、こういうのもどうかと思うが、やっぱりどこにチャンスが転がってるか分からないから、積極的と言うか楽天的に履歴書をドカドカ送り付けてくる。こういう所がアメリカだ。そういうのも好きだけど。

履歴書と言うのは、個人の歴史だから、あれこれ見てるとアメリカにも色々な人生があるのが分かって興味が尽きない。とあるレストランのチーフウエイターをしてる奴なんて、3年勤めて年収が1万2千ドル。もちろん店からの給料がそれだけだが、あとはチップの収入に依存しているのだろう。

まあ、こういう人のなかから選んでも、一所懸命勉強して頑張る人間もきっといるだろう。ひよっとしたら、それがアメリカンドリームの第一歩になるのかもしれないし。そんな事を考えながらも、面白くてしょうがないので、このUnder Qualifyの山ばかり一日中、熱心に読みふけっていたら、アシスタント・マネジャーのオバチャンに、そっちの山はもういいから、こっちの山から、早く誰を面接するか決めてくれと叱られた。いやー申し訳ない。で、結局、一番穏当な経歴の中から選んだんのだが。