昨日の夜、日記をアップしてからTVを見てると、8月の12日が、日航123便が御巣鷹山に墜落した日だと知る。あれからもう15年だとは。日航機が消息を絶ったというニュースを聞いた翌日の朝、TVをつけたとたんに飛びこんできた、ヘリからの凄まじい激突現場の映像は、今でも忘れられない。
その番組では、123便のコックピットのヴォイス・レコーダーの激突寸前の録音が公開されていたが、初めて聞いた。内容自体は、すでに公開されているが、やはり実際の声を聞くと、なんと言うか言葉に詰まる。
御巣鷹山に激突する最後の瞬間まで、機体をコントロールする努力を続けるクルーの声は、確かに緊張して高ぶっているが、最後までパニックには陥っていない。最後の瞬間には、フライト・コントロールシステムが発する「テレイン…テレイン…(地表接近)」という無機的な声。
本当に気の毒なのは、123便のクルーは、機体に何が起こったかまったく知らなかったということ。すべての操作系統の油圧が失われていたのだから、「頭(機首)上げろ」、「下げろ」、「レフトターン」、と繰り返される操縦は、機体の制御にはまったく役に立っていなかった。もっともクルーにはそれを知る由もなかっただろうが。
現在の飛行機は、ああいうハードランディングに際して乗客の安全を守るような設計にはなっていない。アメリカ国内線で、エコノミーの一番後ろに座っていた時。降りるのが遅くなって、出口まで来ると、すでに次のフライトのクラス変更を行うために、整備員が座席を外しているのを見たことがある。飛行機の座席は、実に簡易な取りつけで、スパナで何箇所かチョイチョイとやるとあっけなく外れる。
あれでは、ちょっとした衝突でもグシャグシャになるのは当然だ。ベルトも腰にかける1本だけで、自動車のシートベルトよりオソマツ。座席をもっと頑丈にして、ショックアブソーバーをつける、あるいは自動車のようにエアバッグをつける、乗客も飛行方向にむかって反対に座り、シートで加速度を受けるようにするなどの改善を行うと、衝突の時の生存率は、ある程度上がるらしい。
しかし、飛行機の速度は自動車とはケタ違いだから、本当に激烈な地面との衝突があった場合には、いずれにせよ目覚しい効果はなく、反対に製造コストが膨大にかかる。飛行機の定員も大幅に少なくなり、運送効率も下がる。それでは航空会社の経営が成り立たないので、ハード・ランディングの時は、申し訳ないが、みなさん死んでくださいというのが飛行機の基本的な設計思想だ。
もっとも飛行機でシリアスな事故に遭う確率は、考えようによっては自動車事故に遭う確率よりずっと低い。日本の自動車事故による死者は、だいたい年間1万人だが、飛行機事故での死者はそれをはるかに下回っている。
大手の航空会社が人命にかかわる事故を起す確率は、およそ100万飛行時間に1回くらいだと、以前聞いた記憶があるから、飛行機の平均時速を500キロと仮定すると、年間10万キロ飛行機で旅行する人で、事故に遭う確率は5000年に1度ということになろうか。 もっとも確率がどうであっても、たまたま落ちた飛行機に乗ってれば、それで終わりなわけだから、あんまりこういう机上の計算は救いにはならない。乗客としてできることは、事故率の高い航空会社はなるべく避けるという程度の選択だけである。 |