サダムは消えた。そしてバグダッド陥落。ハッキリ実感したのは、連日報道陣の前で怪気炎を上げていたサハフ情報相が姿を消したという9日夜のニュース。
「米軍はバグダッドに一歩も入れない」、「我々は米軍を虐殺している」、「イラクは必ず勝利する」。虚勢にしか聞こえない発言ばかりだが、自信満々に語っていた男。なによりも面子と名誉を重んじるアラブ人気質を体現した、実に興味深い男であった。今頃は、命からがら落ちのびて、すでに国境を越えただろうか。 「米軍の誤算だ」、「戦争は長期化する」と大合唱していたメディアや軍事評論家は、こうなることは分かってたと言わんばかりの何食わぬ顔で、開戦21日目、あっけないバグダッド陥落を伝えている。 戦争長期化の観測には、「アメリカの戦争には大義がない」、だから「米軍が失敗してほしい」というウェットな心情が入ってなかったか。ニュースステーションでの久米宏のコメントなどには、多分にそんなトーンがあった。これは、「ニッポンは神国だから絶対負けない」、「精神力があれば必ず勝つ」と繰り返した太平洋戦争時の大政翼賛メディアの精神論的観測を裏返しただけ。実のところ同類項の心理である。 「こうあれかし」と思うところを伝えるのがメディアではない。「こうだ」という事実、「こうなる」という正確な分析だけを伝えてほしいのだ。たった3週間で一国の元首を倒すほどの軍事的優位。そしてそれに乗じた米軍の、無慈悲で背筋も凍るような殺戮。これが、メディアが報道すべきだったこの戦争の本質ではないか。おそらく、恐ろしい数のイラク兵が死んでいる。これからが大変。それはその通り。しかし、この3週間に起こったことですら、すでに戦慄すべき恐怖だ。 先日読んだ、「瀬島龍三 日本の証言」(フジテレビ出版)に、瀬島が第3次中東戦争(だったか)が短期間に終わると言い当てた逸話がある。新聞に掲載された情報を丹念に収集し、部隊の配置や戦略を分析するとそうとしか考えられなかったのだという。瀬島は、陸軍大学を主席で卒業。日本帝国陸海軍の戦略を司る参謀本部にいた職業軍人の元トップエリート。単なる軍事オタのニュース解説者とは、やはり底力が違うという気がしたのであった。 |