ちょっと前に購入して未見だったDVD、ハワード・ホークス監督、「遊星よりの物体X」(1951年)を見た。1982年に公開された「遊星からの物体X」(原題はどちらも「The Thing」で同じ)は、SFXを駆使した気色悪い映像が印象的な作品だったが、ホークスの大ファンだった、ジョン・カーペンター監督がリメイクした作品。1951年版は、その元ネタということになる。
南極に墜落して氷漬けになっていたUFOから異星人の死体が発見されるが、実はその生命体は生きており、極地探検隊が全滅の危機にさらされるという、ジョン・キャンベルJr.の「Who goes there!」というSFが原作。どちらが原作に近いかというと、カーペンターのリメイク版であるが、白黒のホークス版も、それなりに牧歌的で面白い。
ホークス版では、氷漬けから生き帰った異星人というのが、まるでフランケンシュタインのような扮装をした人間であるところが、なんとも時代を感じさせる。極地探検隊の基地だというのに、まるでアメリカの普通のオフィスのような格好で女性が何人も働いてるというのも、細部にこだわらない、昔風のエンターテインメントという印象。
ただ、全編に流れる、放射能の脅威への恐れといったトーン、そして、異星からの更なる来襲を警戒するラストは、やはり第2次大戦後、泥沼のソ連との核軍拡競争に突入してゆくアメリカの時代の予兆といったトーンを感じさせてたいへん興味深い。
時代が変わったなあ、といつも思うのは、アメリカの古い映画で、スクリーンに出てくる俳優が、男も女もやたらプカプカとタバコを吹かしている場面を見る時だ。昔は市民権を得た嗜好品だったシガレットも、今や中毒性のあるドラッグ認定。最近の映画では、タバコを吸ってる奴のほうが珍しくなってしまった。
ジョン・カーペンター版では、怪物というのは結局、明かな姿を現さないのだが、最後のほうで、ちょうどまるで学校の渡り廊下のような板を並べた通路があり、その下を見えない怪物が突進してくるようなシーンがある。このシーンについては、結局、板やホコリが舞い上がるだけで、あんまり効果的でなく、昔から、いったい何のために撮ったのか疑問に思っていたが、ホークス版を見て疑問氷解。
ホークス版のラストでは、ドアから入ってきたフランケンシュタイン風の怪物が、ヨロヨロと極地探検隊に迫ってくるシーンがある。その怪物が歩いて来る通路が、ちょうど、板を並べた学校の渡り廊下風なのである。ホークスが扮装した人間に歩かせた同じような廊下を使って、カーペンターは目に見えない怪物がその下を突進してくるところを描いた。ホークス版へ捧げる、一種のオマージュといったシーンなんだな。
昨日は酒飲んでないので快適な目覚め。これからちょっと所用で外出。ひところに比べれば、外もちょっと涼しくなってきた気がする。
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