DVDで「夜の大捜査線」を観た。1967年のアメリカ作品。「In the Heat of the Night」が原題だが、レイ・チャールズがしゃがれた声で歌う同名の主題歌が印象的なタイトルバック。 「白いドレスの女」にも描かれた、うだるようなアメリカ南部の夏の夜。ミシシッピの田舎町に起こった殺人事件と、ほんの偶然から事件解決の捜査に巻き込まれてゆくフィラデルフィア市警のエリート黒人刑事(シドニー・ポアティエ)。 人種差別が、現実としてまだ色濃く残る南部での黒人刑事の活躍。ヨソ者の介入を嫌う白人署長(ロッド・スタイガー)との確執と反目、しかし事件を解決へと導くうちに2人の間に生まれる奇妙な共感と友情。黒人として初めてアメリカ映画界でスターになったシドニー・ポアティエが主演する、アカデミー作品賞受賞の刑事ドラマだ。 ポアティエとは、どういうスペリングかと思ったら、「Poitier 」と書くらしい。フランス風の名前だが、ご先祖はフランス系大農場主の奴隷として、南部で綿花摘みでもしてたのかもしれない。 30年以上前の作品だが、映画自体は、人種の確執を根底に据えた人間ドラマとしてよく練られており、今でも立派に鑑賞に堪える。まあ、強いていうなら、ちょっと結末のインパクトが弱いか。シケた犯人と言えばシケた犯人だ。 もしもこの映画がこの10年のうちに製作されていたならどうだろう。白人実業家の殺人を巡って、レッドネックの貧乏白人と黒人の憎悪を含んだ厳しい対立、そのどちらをも搾取しながら巨万の富を得ている南部のミリオネア達の腐敗、軍産複合体と政治との癒着、地域社会の利権を巡る政治的な謀殺といった、実に骨太の社会派ドラマに仕立上げることが可能だったに違いない。 しかし、現実にこの映画が製作された1967年という時代は、人種差別撤廃と公民権運動の真っ只中。キング牧師の暗殺は翌年である。軽蔑と憎悪と恐怖の眼で黒人を見つめる南部の白人達による人種差別の現実の中では、黒人の刑事が善玉で活躍するこの映画は、すでに十分すぎるほどのセンセーションを社会に与えたに違いない。 白人層の偏見と狭量さを代表するような役であったロッド・スタイガーが、アカデミー主演男優賞を獲得したのも、いまだにアカデミー委員会すら人種差別の意識から抜けきれていなかった時代背景を物語っている。虚心に映画を見るなら、誰が見ても、ロッド・スタイガーは助演で、シドニー・ポワティエこそが主演男優だったのだが。 列車に乗って去って行くポワティエをクローズアップしたショットからカメラが引くと、ヘリコプターからの空撮であったことが分かる。ラストシーンは、当時にしてはなかなか凝った印象的なショットだ。 |