帰宅して、格安CDキャンペーン1500円で買った「アマデウス」を鑑賞。最近、過去の名作がずいぶん廉価DVDになっている。この作品も何度もビデオで見たし感想も書いたが、大変よくできた心理ドラマ。サリエリ役のF・マーレイ・エイブラハムが素晴らしい。 モーツァルトの楽譜に天上の神の声を聞く至福。モーツァルトの自分への嘲りに神の嘲笑を聞く憤激。天才を評価はできるが、自らは天才になれない自分に対する絶望。エイブラハムは実に印象的に演じ分けている。 ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトへの嫉妬は次第に、神への賛美を歌い上げる渇望だけを与え、賛美する声を与えなかった神への怒りと憎しみに変わってゆく。 「今日から我々は敵だ。なぜならお前はあまりにも不公平だから。そして俺はお前の寵愛を受けたモーツァルトを破滅させてやる」 十字架を暖炉で焼くサリエリ。誰よりも神の恩寵を信じた男。その男が神に裏切られたと知った時、その神への絶望と憎悪は背筋が寒くなるほど凄まじい。そして示唆される計画的なモーツァルト殺し。ピーター・シェーファートの戯曲を下敷きにした脚本も素晴らしい。 トム・ハルスも好演しているのだが、この「アマデウス」以降はこれといった作品が無い。マーレイ・エイブラハムは「薔薇の名前」の異端審問官が印象に残っているが、やはり今でもサリエリ役が一代の名演。これまた、それ以降はあんまり目立つ役がないような。 シーンの随所に挿入された音楽の使い方も印象的。死の床で「レクイエム」を採譜してゆくラストのシークェンスも、作曲の過程を目の前に彷彿とさせて圧巻。しかし、もう20年も前の作品とは。エイブラハムの主演男優賞以外に、アカデミー作品賞と監督賞、脚本賞も受賞。素晴らしい作品は時間を超えて残る。 |