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2005/03/06 「ミンボーの女」と日本の「暴力装置」

今週初めにAmazonから注文していた「たたかうオンナBOX」到着。「マルサの女」、「マルサの女2」、「ミンボーの女」、「スーパーの女」、「マルタイの女」の5本とメイキングが3本入ったボックス。伊丹十三は俳優でもあったが、TVのドキュメンタリーや雑誌のインタビューも数多く手がけている。そんな側面を生かした社会派のエンターテインメントを集めたもの。

平日は見る時間がなかったのだが、土曜に「ミンボーの女」鑑賞。これは昔、劇場ではなくレンタル・ビデオで見たことあり。暴力団の「民事介入暴力」を「ミンボー(民暴)」と称するとこの映画で知った人も多いのでは。暴力団につけこまれ、ゆすられる有名ホテルが、ミンボー専門の女弁護士(宮本信子)の助けを得て暴力団との関係を断ち切るまでをコミカルに描く。

メイキング・ビデオの「ミンボーなんて怖くない」のほうでは、実際に暴力団対応を専門としている弁護士やホテルの担当の興味深いインタビューが収録されているのだが、暴力団のゆすり、たかりの手口について、伊丹監督が事前に周到な取材をしていたことが分かる。

ホテルの経理マンからひょんなことで暴力団対応専門に指名される役の大地康雄は、「マルサの女」で有名になったが、手堅く安定した演技。素晴らしい俳優だが、ただTV向きではないんだなあ。宝田明は、往年の2枚目最後の残り火がわずかに輝いている。

柳葉敏郎がヤクザの三下、鉄砲玉役というのも92年の製作であることを感じさせて面白い。ヤクザ役の伊東四郎、小松方正も迫力あって好演。しかし、これはあくまでも映画であって、ヤクザの演技はある程度戯画化されている。本当のヤクザの恐ろしさはあんなものではないだろう。

学生時代、バイトしていた神戸の北京料理の店で300人以上を集めた暴力団組員の出所祝いがあった。全国から集まってきた本物の迫力というのは、映画のヤクザと比べると、なんというかモデルガンと本物の拳銃の差。黒光りした凄みがあった。山口組四代目の竹中正久が、強制捜査に来た警官隊に玄関先で怒鳴り散らすドキュメント映像を見たことがあるが、これもどんなに俳優が真似しても真似できるようなシロモノではない。「暴力のプロ」はやはり凄まじい迫力を持っている。

この映画の公開後、伊丹監督は暴力団組員に襲われ顔を切られている。メイキング・ビデオにはその犯行に関しての「ミンボー」専門弁護士のコメントが収録されているのだが、これが怖い。

「犯人の意図としては、殺人未遂になっては困る、傷害で止めておきたい。だから、殺意を認定されないよう、しかし相当のダメージを与えるよう考えている。一人では抵抗されてうっかり頚動脈を切ってしまうかもしれない。だから2人組で羽交い締めにした後で、急所を避け、よく切れるが深く入らない鋭利な刃物で顔を狙って切ったんですな」

新暴対法が施行され、バブルは崩壊し、総会屋は激減し、民事介入暴力は一見して影を潜めたかのように見える。しかし、政界や財界を巡るスキャンダルで今でも相次ぐ奇妙な関係者の死などをニュースで見るたびに、暴力のプロが集まったこの「暴力装置」は、今でも日本の暗部でしっかり隆盛を誇っているのではないだろうかと感じるのだ。