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2005/03/21 「マルタイの女」と伊丹十三回顧ブーム

「たたかうオンナBOX」から「マルタイの女」鑑賞。見るのはこれが初めて。劇場公開が97年。ちょうどアメリカから帰国する直前で、結局見ないまま現在まで。同じ年の12月に伊丹十三監督が自殺しているから、これが遺作ということになる。

偶然にもカルト教団による弁護士殺人を目撃した女優(宮本信子)。警察側の重要証人となった彼女には、証人を保護するための刑事が貼り付く。警察による身辺保護対象者のことを警察用語で「マルタイ」と称するらしい。証言を封じるために彼女を狙うカルト教団と彼女を保護する刑事を描くアクション・コメディ。ヤクザに襲われ、実際に自分が「マルタイ」となった伊丹監督の経験が投影されている。

弁護士殺人を実行するカルト教団は「オウム真理教」をモデルにしているのだが、脱税、ヤクザなど常に物議をかもす対象にあえて挑む伊丹十三の社会派な一面がよく出ている。刑事役の西村雅彦は実に印象的な好演。手馴れた役者を揃えて完成された手堅い演出。面白いのだが、例えば劇中劇の部分など、それまでの伊丹作品と比較するとなぜか生彩に欠ける。宮本信子は大変上手い女優だが、さすがにこの頃になると魅力が薄れてきているという気もした。

主人公が見る悪夢の中で、「人生は実に中途半端な、そう、道端のドブのようなところで終るもんだよ」と語った津川雅彦が拳銃で自分の頭を打ちぬくシーンがある。このセリフを書いた時、伊丹十三の脳裏に自らの自殺シーンが既によぎっていたとしたら、実に痛ましく恐ろしい場面である。

このDVDボックスだけでなく、本の方でも最近は伊丹十三回顧ブーム。新潮文庫から、往年の名エッセイ、「ヨーロッパ退屈日記」が再版された。

映画出演のため長期滞在したヨーロッパで、若き伊丹十三の観察眼が切り出した様々なエピソード。文春から出た昔の文庫本を持ってるのだが、その表紙には、「この本を読んでニヤッと笑ったら、あなたは本格派で、しかもちょっと変なヒトです」とある。これは山口瞳がつけた名コピー。映画、語学、料理、服装、旅行。あらゆるジャンルを彷徨しながら、常にこのエッセイ集が語ろうとしているのは「何が本格で、何がニセモノか」ということ。また本棚から発掘して再読するか。