MADE IN JAPAN! 過去ログ

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2005/05/08 Shall we Dance ?

Perth行きのカンタス便で見た。もちろん、周防正行監督の「Shall we ダンス?」をハリウッドがリメイクしたもの。余談だがオーストラリアではもうDVDが発売されている。そういえば「ナショナル・トレジャー」も売ってたな。まあ、国コードが違うから日本に持ち帰っても見ることはできないようだが。

ハリウッド版とはいえ、原作の優れた部分はほとんど損なわれていない。というより、過去日記に書いたことがあるのだが、そもそも周防オリジナルがハリウッド映画をよく研究して作ってあるというべきだ。ハリウッドの製作側も細かい演出に至るまで、ほとんどそのまま使って違和感がなかっただろう。

平凡なサラリーマンが、通勤電車の窓からダンス教室の窓辺で憂いに沈む美女を見つけるというのが日本版の導入部だが、この設定を使うために、アメリカ版では主人公をシカゴ、ダウンタウンのアパートメントに住む弁護士として設定している。まあ、確かに郊外の一軒屋では電車で通うのが妙だし、地下鉄ではふと外を見上げてダンス教室を見つけるという設定が使えない。よく考えたもんである。

役所広司も名演だったが、リチャード・ギアも巧い。真面目な良き夫、父親がダンスにはまってゆく過程を渋く演じている。最後に奥さんを迎えに行くところは、なんだか往年の「愛と青春の旅立ち」を思い出した。盛り上げ方がちょっと似ているのである。年配のダンス教師がアル中気味であるとか、リチャード・ギアの奥さんが働いていることなど、設定の微調整もご愛嬌。

日本版で竹中直人や柄本明が演じた役については、個人的にはアメリカ版のほうが自然で好ましい気がした。日本版では竹中の怪演は映画を成立させる必須のファクターなのだが、アメリカ版に竹中をそのまま放り込むと、全体のバランスがやはり壊れるだろう。そういう面では竹中の存在感にも恐ろしいものあり。「引越しのサカイ」のオッサン(名前忘れたなあ)演ずる役については、日本版のほうがずっとメリハリがあって面白い。もっとも、あれは監督の演出というより個人技の世界か。最近見ないが元気なのかね。

画面の色はやはりアメリカそのもの。夜のシーンは特に陰影が深く、まさにハリウッド映画。夜の飛行機から見ると、日本の夜景は蛍光灯の色だがアメリカの夜景はオレンジの電球色。ちょうどそんな風に違うのだ。

ジェニファー・ロペスは確かに魅力的ではあるが、日本版で演じた草刈民代の、あのちょっと冷たく高貴な感じがない。よく言えばもっとセクシー、悪く言えば下品。大会の前にギアと2人だけの深夜のレッスンは、濃厚な猥雑さと魅惑が絡み合う印象的なシーン。あれはあれで成立しているのだが、日本版の淡くホロ苦いプラトニックな情感にはやや欠けているような。ま、そもそも彼らは肉食獣だからなあ。

全般的に感心したのは、やはり周防日本版がいかによくできているかということ。もっとも、その秀逸さは邦画の伝統そのものとは関係がなく、アメリカ映画の文法をきちんと踏襲した上に成り立っているように思うのだが。日米の映画を比較する視点で見るとなかなか面白かった。