Amazonで購入したDVD、「アイリーン 「モンスター」と呼ばれた女」を見た。アメリカ初の女性シリアル・キラーと言われたアイリーン・ウォーノスの生涯を追うドキュメンタリー。アカデミー賞主演女優賞を受賞したシャーリーズ・セロンの、「モンスター」は、このアイリーン・ウォーノスを題材にした映画であった。映画のほうも救いがないのだが、こちらは実話だけあって更に重く陰惨。 7名の男性を殺して監獄に入れられた犯人、アイリーンと10年以上にわたって接見し、その生涯を追い続けたのが、イギリス出身のドキュメンタリー監督、ニック・ブルームフィールド。アイリーンの知り合いが、「だって私達が子供の頃は、同性愛なんて聞いてこともなかったわよね」と語ると、「僕はイギリス生まれだけど、パブリック・スクールに行ってね。同性愛が発明された場所さ」と答える。英国人らしいシニカルで冷静な眼。相手の話に割り込んだかのように見えて、話の核心に何時の間にか浸透してゆくインタビューのテンポが独特で面白い。 ドキュメンタリーは、刑務所のアイリーンとの面会や、生まれ故郷のミシガン州トロイ、16歳で移り住んだフロリダと場面を何度も変え、アイリーンの生涯を復元してゆく。 アイリーンの実母はアルコール中毒。10代でアイリーンを出産し6ヵ月後に彼女を捨て離婚。父親は少年に性的虐待を加えて逮捕され、刑務所で自殺。彼女を引き取った祖父は実の父親だとの噂もあったが、アイリーンにも性的虐待を加える。アイリーンは12歳からドラッグ中毒で身体を売るようになり、13歳で出産。子供は施設に引き取られたが、家を追われ、森の中で野宿して暮らすようになる。16歳でフロリダに来て売春で生計を立てだしたのは、ミシガンにはもうどこにも彼女の居場所がなかったからだ。まさに地獄絵図さながら。 死刑判決の後、10年以上もの刑務所暮らし。アイリーンとのインタビュー映像を追って見ると、最後になるに従い、長期間の拘禁が明らかに彼女の精神に悪い影響を与えているのがわかる。受け答えに脈絡がなくなり、証言はコロコロと変わる。自分を連続殺人犯にしたのは警察の陰謀だという説を延々と語り始める。悲惨な生い立ちの女性を更に襲う過酷な運命。実に痛ましい。 特典として収録されている同じ監督の前作、「セリング・オブ・シリアル・キラー」(The Selling of a Serial Killer)は1992年の作品。同じくアイリーン・ウォーノスを取材したドキュメンタリー。 逮捕後のアイリーンにハイエナのように群がる多くの人々。担当の警察署長と幹部は、アイリーンの連続殺人事件の映画化にからんで金を儲けようとする。弁護を買って出たヒッピー崩れのような弁護士は、「アイリーンは死にたがってるのだ」と勝手に決め、法廷で罪を自白させ、司法取引もせずに「No Contest」を主張して裁判官の度肝を抜く。アイリーンと接触してアイリーンを養子にした女性は、キリスト教原理主義の一派、ボーン・アゲイン・クリスチャン(キリスト教原理主義については「核戦争を待望する人々」に詳しい)。これまた、アイリーンの取材に関して監督に金を要求したり、アイリーンに自供を勧めたり、実に奇妙な人物。 アメリカの影に潜む貧困と陰惨、虐待と売春、人間を食い物にする人間達、何が罪で何が善か。何が正気で何が狂気か。このドキュメンタリーが我々に投げかけるのは、回答不能な問いの数々である。 |